蕾ほころぶ(4)

「それでは試合開始の時間です!」

 リングアナが予告をする。


(緊張して声も出ないかい?)

 物静かなチーム『フラワーダンス』にヘテナは思う。

(悪いが一気に決めさせてもらう。恨むんじゃないよ、嬢ちゃんたち。恨むんなら若い子で人気を得ようとしたヘーゲルの大人を恨みな)


「ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」

 ゴングで試合開始が告げられた。

「なに?」

「あらら、逃げちゃった」

「ヘテナが無言のプレッシャー掛けるから」


 チーム『アフターキル』の意に反してヘーゲルのアームドスキンは一斉に障害物スティープルの林に散っていった。


    ◇      ◇      ◇


 ビビアンたちが静かだったのは緊張していたからではない。部隊回線でスタッフルームのコマンダー、エナミとのやり取りに忙しかったからだ。


「見てのとおり『アフターキル』はワントップチーム。経験とパイロットスキルは比較にならないのに、私たちと同じAAダブルエースクラスなのはそれが理由」

 わかりやすく説明する。

「うん、売り文句どおりならもっと上のクラスにいるはず」

「軍歴の中でアームドスキンにも乗ってきたけど、操縦を憶えた頃はアストロウォーカーだったのよ。だから砲撃手ガンナーに傾いてる。重きをそっちに置いているの。アームドスキンの特性が身に染み付いていない」

「エナの言うとおりね。勝ったり負けたりなのはその所為」

 サリエリも保証した。


 エナミは練習に参加しながらも、ここ数日を相手チームの分析に費やしていた。メンバーの初戦に懸ける意気込みを感じるにつれ、スムースに勝ちあがるのがどれほど大事か実感したからだ。


「たぶん、砲撃手ガンナー四機が綺麗な戦列ラインを組んで追い立ててくると思う。剣士フェンサーは半分デコイ」

 基本戦術パターンを攻略されて負けているのだ。

「やることは同じね?」

「ええ、リーダー機のヘテナさんを狙いにいくと失敗する。落ちれば弱点だけど、一番強いとこでもあるから」

戦列ラインの端に食い付いて一機ずつ落としていく。それ?」

 サリエリも相手チーム構成に準じた作戦パターンを提示。

「ええ、それが確実ではあるけど、すぐに気づかれてしまう。対応されると困るから迷彩を掛けます」

「迷彩って?」

「端を狙ってきたと思わせて、反対の端が動いてきたところを狙うの」


 開始と同時に障害物スティープルエリアへと入るよう指示したのは彼女だ。それはホライズンの配置が変化したのを見せないためである。


「エナはあったま良いのにー」

 ユーリィがナビスフィアの指示で移動していく。

「今日は走りすぎないで、リィ。サリがワンテンポ遅れるから。ウルに合わせて」

「スフィアの矢印の長さに注目よ」

「わかったに」


 繊細な指揮に慣れてきてくれている。コマンダーとして採用されはじめてこちら勝ち続けているのがチームの自信にも繋がっているし、練習期間もみっちりと反復した。


(やはり速やか。慣れてる)

 エナミは見定める。


 新型を見せたので性能任せに押してくると読んだだろう。しかし、実際にはスティープルエリアに誘い込んだ。その変化にもう対応してきているのだ。


(戸惑うようだったらもっと簡単だった。でも、これ。そのつもりで相手しないと)

 アフターキルはパイロットとしては皆優秀である。


「ビビ、間もなく接敵。そのまま仕掛け。ミンとサリで援護」

「ラジャ」

 言わなくともサリは匂わせてくれよう。

「リィとウルはもう少し移動。意外と長く伸びてる」

「嘗められてる?」

「うん、ちょっと薄い」

 網を広く取ってきた。


(どう読んできた? きっとこれは誘い。性能勝負の乱戦に持ち込むつもりだと考えたのね。仕掛けてきたら網を絞るつもり)

 連携の正確さは自信を持っているのだ。


「接敵! 撃ってきた」

 ビビアンの報告。

「まだ引かないで。もたせて」

「だいじょぶ。援護来てるから」

「落とさせるか!」


 レイミンが走り込みつつ狙撃している。足回りの安定性が照準の正確さを格段に上げていた。停止してからの狙撃並みだ。


(ミュウが言ったとおりだ。動かしながらでも体勢作れる。やっぱりホライズンはすごい)

 作戦遂行を簡単にしてくれていた。


「どう?」

 サリエリはペアの前衛トップが残っているかのような偽装をしつつ援護。

「引っ掛かった。右方向巻いてきてる。動いて、サリ」

「ラジャ」

「ビビ、少し戻し。焦らせる」

 相手の動きを見つつ指示する。

「エナったらエグみー」

「言わないで。私、みんなを勝たせたいからなんでもする」

「うん、愛してる」


 反対の戦列ラインの端が走った分だけ余計に網が薄くなる。各個撃破のチャンスである。罠を仕掛けた。


「ウル、右から」

「うい」

 走る相手の足元にスティックを突きだす。

「もらいにー!」

「飛びださない。ウルと挟んで確実に」

「はいにゃ」


 スティックを躱したゼクトロンが背中を見せている。そこへユーリィが斬り掛かった。驚くべき勘で回避している。しかし、その頃には罠のど真ん中だ。狙撃のビームが直撃する。


「当たり!」

「おーっと、撃墜ノック判定ダウン! アフターキル最初の犠牲者が出てしまったぁー!」


(まだ、こっちのスピード感に慣れてない。今のうちに勝負を決める)


 エナミはクレバーに親友たちを誘導していった。

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