ミュッセルの家(1)
グレオヌスはその狼頭で呆然と見上げていた。そこには思いがけない物が屹立していたからだ。
(冗談みたいだ)
家と呼ぶにはあまりに構えが大きかった。それもそのはず、投影されているパネルサインには『ブーゲンベルクリペア』とある。ここは
ただし、そんなに大きいものではない。70mほどの間口に左右二つのスライドシャッターが設けられている。ミュッセルに連れられたグレオヌスは通用口に案内された。
「お袋ー、友達連れてきたー!」
そう言いながら中に入ると
(アストロウォーカー? いや、アームドスキンだ)
かなり荒削りなフォルムをしている。武骨なボディは膨らんだ関節部ばかりが目立った。逆にいうと、それでフレーム構造を持つアームドスキンだと気づける。
(こんな町工場みたいな場所で?)
同じ全高が20mほどの人型機動兵器、アストロウォーカーとアームドスキン。両者の大きな違いはフレーム構造を持つか否かである。
「戦闘可能なスペックを備えてる?」
「見てわかんのか? ま、当然か」
屹立するアームドスキンは背中に紡錘形のパルススラスターを備えているパルスジェットが並列配置されていて機体の機道制御を行うタイプの推進機である。これと
「お前もアレだろ?」
「誤魔化しようもない」
苦笑いする。
ミュッセルは自分の頭の
それこそがアームドスキン
「これも修理機か? 違うな」
壁際には主に建設作業用のランドウォーカーが並んでいる。
「俺のだ。ここで組んだ」
「そうじゃないかと思ったが……、一人でか?」
「ほとんどな」
そう思った理由は簡単である。そのアームドスキンが真紅に塗装されていたからだ。売り物になるような色ではないし、ましてや
「変わった趣味だ」
「俺もそう思うぜ」
肩をすくめるとミュッセルはゲラゲラ笑う。
普通に考えると趣味で収まらない資金が必要だ。どうやって稼いでいるかも気になるが、そこまで立ち入るほど親しくなってはいない。
「友達って? おやおや」
小柄な女性が歩いてくる
「遠くからいらっしゃったんだね。あっちにお座り。お茶を出すから」
「おかまいなく」
「仲良くなったんだぜ。メシ食わせてやってくれよ。いいだろ、お袋?」
女性は「いいさ」と言いながら奥に入っていく。
「いつ、そんなに仲良くなったんだい?」
「お前、そりゃ、あんだけ殴り合えば
「その理屈は理解に苦しむけどな」
ミュッセルが指で示したテーブルに着く。作業スペースの片隅に置かれた簡素なものだ。ところどころに油染みが付いているのもご愛嬌。ツンと来る機械油の匂いは、グレオヌスも伝わり立ちの時分から嗅いできたものである。
「親父も休憩にしろよ」
「おう」
「親父のダナスル。こいつはグレオヌス・アーフ。留学生だとよ」
父親に紹介される。
「そうか。どこから来た?」
「なんというか、宇宙です」
「宇宙暮らしか。そりゃ業なこったな」
椅子にどすんと尻を落とすと人好きのする笑顔を向けてくる。
「慣れるものです」
「当たり前か。悪かったな」
「いえ、問題ありません」
地上暮らしをしている人と話すとこんな反応が返ってくるのは有りがちなこと。彼らにとっては慣れない無重力が不自由に思えてしまう。しかし、産まれたときからずっと宇宙にいると四六時中重力に縛られているのが煩わしくもなってくる。
(実際、変な疲れを感じてきてる)
自覚があった。
戦闘艦でも標準重力の10%、0.1Gの
(一週間もすれば身体のほうは慣れてくるだろうし)
心配はしてない。
「はいよ」
マグカップが目の前に置かれる。
「ありがとうございます」
「変な遠慮するんじゃないよ」
「お袋のチェニセル。遠慮いらねえかんな」
遠慮もなにもない。中身はただの紅茶らしい。このくらいの扱いのほうが気楽でいい。管理局に大事にされるよりか気が休まる。
「ダーナ、手ぐらい洗ってきな」
「っと、すまん」
そのままカップに手を伸ばした父親が叱られている。
「マシュリもこっちに来て休みな」
「はい」
「は?」
グレオヌスは歩いてきた女性に瞠目をした。
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