昔から日課の鍛錬に使ってる地元のダンジョンが、世界的に見たら超絶高難度ダンジョンってウソだろ? ~辺境でいつの間にか最強になっていた俺は、バカンスに訪れた皇女殿下に見初められて王都さ行って無双する~

新原(あらばら)

序章

第1話 まだバレてない最強 1

 俺が生まれ育ったのはクソ田舎の辺境だ。


 田んぼと畑。

 山と川。

 360度どこを見渡しても高い建物がない大自然の一角。


 一番近い町まで馬で1日掛かるド田舎だ。


 おまけに俺以外に若者が居ない。


 17の俺の次に若いのが、45のおっちゃんだから笑えない。

 ……俺の親が生きてりゃ、多少マシだったんだろうが。


 この辺境は一応、暑い時期の避暑地として観光名所登録されているが、ここより優れた避暑地なんてごまんとある。

 だから夏季だというのにまったく賑わっていない。


 親代わりのリリン婆ちゃんが営む民宿にお手伝いとして住み込んでいるが、観光客なんて年1で上等。

 基本的に暇なので、俺は来る日も来る日も自らの無駄な鍛錬に勤しんでいた。

 それくらいしかすることがないのだ。


 この日もそうだった。

 くっそ暑い日差しの中、近隣の森を歩くこと30分ほどの場所に、古いダンジョンがある。

 危ないから近付くな、と地元では言われている場所だ。

 でも過疎過ぎて友達すら居ない俺は暇で暇で仕方なく。

 我慢出来なくて。

 幼い頃からコッソリと――まぁ今ではバレているんだが――暇潰しに足を踏み入れては攻略を繰り返している。


 どのダンジョンもそうであるように、内部の魔物は時間経過と共に再配置される。

 娯楽のないこんな過疎田舎生まれの俺に言わせれば、ここは唯一の遊び場。

 繰り返し攻略することで生を実感出来る。


 ダンジョンにはランクってモノがあるらしい。

 高難度ダンジョンには良いお宝や報酬が眠っているんだとか。

 俺は最奥の台座から錆びた鉄剣をゲットしている。

 切れ味は悪いが使えなくもないので、一度クリアしてからはその鉄剣が相棒。


 でもまぁ、錆びた鉄剣が報酬だったことを思えば、このダンジョンは低ランクだろう。

 巣くう魔物も、そんなに強くないしな。


   ◇


「あ、戻ったかいリングス」


 日課のダンジョン攻略(1日1回)を終わらせ、民宿に帰宅。

 すると、俺の面倒を見てくれているリリン婆ちゃんが忙しそうに動き回っていた。

 おや……?


「あんたの不在中に今日は珍しく客人が来たのさ。急いで支度を手伝っとくれ」


 そういや……表に見慣れない馬車があったな。

 結構豪奢な感じのが幾つか。


「どういうお客さん?」

「エバリンス皇族家のご令嬢。要するに王都の姫さん一行さ」

「……ま、マジ?」

「マジさね。皇族ともなれば、有名な避暑地よりも人の目が少ない辺鄙な場所の方が気が休まるんじゃないかい? 知らんけど」


 リリン婆ちゃんは「とにかくはよ手伝いな。昼食の仕込みを始めるからね」と厨房に入り込んでいった。

 育ての親のリリン婆ちゃんには頭が上がらない。

 俺はその背中に続いて、厨房での仕込みを手伝い始めた。

 それが済んだあと――


「姫さん一行が不自由にしてないかどうか見に行っとくれ。何か要望を言われたら出来る限り承ること」


 と言われ、俺は奥の客室を訪ねることになった。


「失礼します。宿の者です」


 客室の手前に使用人じみた女性が佇んでいたので、その人にそう告げる。

 黒服を着用している黒髪ショートヘアの女性だ。


「何か?」

「お困り事などがございましたら承りますが、いかがでしょう?」

「では、姫様に一度確認してきますので」

「あ、はい、お願いします」


 黒服の女性が室内に入り込んでいく。

 ……伝言ゲームかよ。

 まぁ俺みたいな庶民が直接お姫様と話すことはそりゃ出来ないよな。


「泊まる上で困っていることはありませんが、ひとつ質問がございます」


 ところが、次の瞬間廊下に出て来たのは、黒服の女性ではなく――


 ――金髪碧眼の美少女だった。


 気品と神々しさを兼ね備えた、ハッと見とれるこの存在感。

 まさかこの子……。


「お初にお目にかかります。リルガラーティア帝国第3皇女のフレンシア=エバリンスと申します」


 やっぱり……。

 すげえ……初めて皇族とお会い出来た……。


 ……っと、見とれてる場合じゃない。

 挨拶挨拶……。


「お、俺は宿の手伝いをしているリングス=アルバラートって言います」

「リングス殿ですか。ではリングス殿、地元の民であるあなたに是非お尋ねしたいことがございます。――この辺りにダンジョンはありませんか?」


 フレンシア殿下はやんごとなき格好ではなく、軽装備を着込んだ状態だった。


「この地には避暑目的で訪れましたが、実のところもうひとつ、目的がありまして」

「……それがダンジョンですか?」

「まさしく。この地には神話時代のSSSランクダンジョンが存在しているという秘匿されし伝承が残されております。そのダンジョンの奥には《聖剣エクスカリバー》が眠っているとのことです」


 へえ……初耳だな。


「私は王都の冒険者育成学院に通っておりまして、そこでトップとなるために使い手を最強たらしめるというその聖剣を欲しています。夏の長期休暇中である現状が、エクスカリバーを探すチャンスでして」

「……なるほど」

「ですから、エクスカリバーが眠るダンジョンについて心当たりがありましたら、是非ご教授いただきたいのですが」


 ……って言われてもなぁ。

 この辺にそんな凄そうなダンジョンある?

 俺の遊び場は魔物の強さ的に違うだろうし……。

 奥に剣はあったけど、俺のあの相棒がそのエクスカリバーってヤツじゃないだろうしなぁ……。


「……申し訳ありませんが、俺から教えられることは何も」

「本当ですか? この辺りにはダンジョンがひとつもないのですか?」

「あ、いえ……ひとつだけ、あるにはありますが」

「あるのですねっ!?」

「は、はい」

「でしたら、今からそこに案内していただけませんかっ?」


 殿下は身を乗り出す勢いでそうおっしゃられた。


「一応、この目で確認しておきたいのですっ。もしかしたらエクスカリバーが眠る神話時代のSSSランクダンジョンかもしれませんのでっ」


 絶対違うと思うけどなぁ……。


「何卒、案内をお願い出来ませんかっ?」

「まぁ、どうしてもというなら、別にやぶさかではありませんけど……」

「ではダンジョンまでの案内をしていただけるということですねっ?」

「……はい、お望みとあらば承ります」


 皇族の指示に逆らうのは怖いしな。


「ありがとうございますっ。――聞いていましたねスローネ」


 殿下は脇に控えていた黒服の女性に呼びかける。


「表に待機させている護衛隊の皆さんにも、調査の準備をさせておいてください」

「かしこまりました」


 スローネと言うらしい従者さんがうやうやしく頭を下げ、表に向かって歩き出す。


 さてと……じゃあ俺も案内の準備を済ませるとしようか。

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