第2話 双子の天使②
学校に着いたら、全員で体育館に向かう。
男女別の更衣室で練習着に着替えて、顧問の先生の話を聞いてから準備運動を始める。
その後それぞれが自分で決めた自分のメニューをこなす。
似たような事を体育の授業でもやるから余計に面倒と感じてしまう。
「…中学生に自分でメニュー決めさせんなよ…」
「ほら、真…先生に聞こえたらどうなるか分かったもんじゃないよ?」
「いや、いっそ何なんですかって聞くか?」
「辞めておきなよ、面倒臭いって」
他愛の無い会話をしながらシュート練習をしていると…後ろから声をかけられる。
「喋るなとは言わない。アドバイスは必要だからな。だが、私語が多すぎる。お前ら二人次は無いぞ?」
振り向いて見上げると…顧問の先生…
口調と低めの声なせいで、初見では女性だと気が付かなかった。
だって…身長191cmだよ?
デカいんだよ、後ろに立つなバスケ部め。
警告を受けたので、次バレたら校庭で走り込みでもさせられるのだろうか。
現代なら訴えても「虐待だ!」とか適当な事言ってるだけで裁判で勝てそうだけどそれすら怖いので大人しくメニューと真摯に向き合った。
3時間程動いて、流した汗を拭き、スポーツドリンクで喉を潤す。
今年度は始まったばかりなのでまだ新入生は見学には等は来ていない。
体育館のドアを開けて涼しい風を感じながら、殆ど散った桜を眺める。
「……疲れた…」
いつの間にか側に来て、言いながら美月が俺に寄り掛かる。
銀色のショートヘアを俺の肩に置いて外を眺める。
汗に濡れた髪を平然と男の肩に置くあたり、そういう事を気にする余裕も無いんだろう。
美月は、運動する性格ではない。運動能力が無いわけじゃないし体力もそこそこあるのにな。
寄り掛かって来る美月を見下ろすと、少しはだけた襟元から谷間が見えた。
慌てて視線を上げてふと考える。
ぱっと見ではあるが、凛月より美月の方が胸の成長が早い様に感じる。
所詮は中学生ではあるのだが他の女子と比べても、美月はいささか成育が良い。
「みつー!休憩終わりだよ!」
「……分かった…」
元気過ぎる凛月に対して、しぶしぶと言う感じで頭を上げる美月を軽く撫でてやる。
「ほら、頑張れ」
あんまり汗をかいている女の子の頭を撫でるのは良く無いかも。
される側の事考えて無かった。
少し驚いた様に俺を見ると、直ぐに小さく頷いた。
どうやら気にしている様子は無く、無表情のまま俺に向かって軽く手を振ってから凛月の元へ走って行った。
「良い身分だね…真」
「うるせぇよ」
いつの間にか側に居た晶は、ニヤニヤしながら肘で小突いてくる。
「次、試合形式だってさ」
「面倒…」
「真の分まで動くからさ」
「……パスはする」
持参した弁当を食べて…軽くミーティングをしてから下校。
凛月達とは別れて晶と寄り道をする事にしたから。
中学校近くにあるコンビニでちょっとしたお菓子を買って公園に行く。
「それで、何を話したいんだ?」
わざわざ晶に着いてきて寄り道した理由。
それは晶に相談に乗って欲しいという話しされたからだった。
「あー…うん、それなんだけどね」
「何だよ?」
「高校どこ行こうかなって」
「…はぁ…そんな事…かよ…。うち中高一貫だろ」
「そんな事って…結構大事な事だよ?」
「大事だけど……俺じゃなくて親に聞けよ」
「聞いたんだよ」
「そしたら?」
「好きに決めろって。自分で将来の事考えるのは…難しいなぁ……ね」
将来…と言われてもな。
それにしても、高校か。
来年受験って考えると普通は考える時期なのだろうか、まだ何となく早い気もする。
「…いや、でもまだ4月だぞ。もう直ぐ5月入るとは言え…早い気がする」
「そうなんだよね」
「…なら何でそんな話を…」
「いやぁ…ちょっと前に学園恋愛系のラノベを読んでさあ…」
「影響されてかよ…。そんなくだらない話に付き合わせんな」
晶は鉄棒に座ると、チューインガムを口に放り込む。
「えー…まあ、そうか。…あれ?真は天使様のどっちと付き合うんだい?」
「さあな。他の誰かって可能性も大いにあるだろ。この話は終わりだ。帰るぞ」
「あっ……誤魔化したな!どっちが好きか聞くまで帰らないぞ!」
知るか。
俺だってどっちが好きかなんて…考えた事無いっての。
それに、あの二人のどっちかを好きになるって言うんなら、100人中99人は凛月って答える気がするけども。
「まあ…無いな」
凛月に限らず、あの二人とは現状維持が一番な気がする。
取り敢えず…今はそれで良い。
恋愛がどうこうなんて、まだ考える年齢でも無いだろ。
あー…でも、高校自体は考えておくのは必要かも。
将来やりたい事とか…夢とか…今の所は無いし…。
◆◆◆
俺は晶と別れて…スーパーによってから家に帰った。
そして翌日、俺は隣の家…鷹崎家にお邪魔さてもらっていた。
母さんは、俺を産んで直ぐに父親と離婚したって言っていた。
その時は「見る目が無かったんだよー」と笑いながら話していたが、どこか複雑な表情で瞳を泳がせていた。
母さんは仕事の都合上、良く家を空ける。
なので、俺は隣の家である鷹崎家にとてもお世話になっていた。
話を聞くと、うちの母さんもかなりお世話になっていたんだとか。
あっちの夫婦はアンタより年下の筈だが…?
とは思ったものの母さんの性格は知っているし、詳しい話を聞く気は無いけど。
ともかく、そんな理由があって昔は凛月達とは兄妹の様な関係だった。
そんな俺が今日、鷹崎家に居る理由は当然凛月と美月……ではなく、その弟に呼ばれたからだった。
鷹崎
あの双子のどちらに似てるか…と聞かれたら…能力は凛月、性格は美月…と言った感じ。
正直、三人の父親で…俺の父親の様な存在でもあった、鷹崎
渚は俺達の一つ下の学年で中学校は同じ。俺からしたら後輩という事になる。
姉二人と同様に母親譲りの美しい銀髪と碧眼を持つイケメンな陰キャ。
「
「漫画の評価して欲しいって言われて来たのになんで性格のダメ出しされ無きゃいけないんだ…?」
渚は漫画を描いてると背景やイラストの細部が疎かになる事があるらしい、けど。
漫画の内容を気にしてるんだからさ、俺の性格言われても困るよ。
渚は昔から絵が好きで、イラストだったり最近は漫画を書いては俺に読ませてくる。
絵は上手いんだけどなぁ、内容が浅い。
「漫画はまぁ…うん。イラストの方が向いてる、多分」
「前も言われたけど…そんなにつまんない?」
「言葉選んでやってんのに何でつまんないって言うんだよ…」
「評価してって言ってるんだから言葉選ぶ必要無いって」
「てかさ、絵の細かい所が気になるんならやっぱりイラストだけに集中して描いた方が良くないか?」
「うーん…そうなのかなぁ…」
「お前、この前挙げたイラストの高評価どんなもんだった?」
「えーと…ちょっと待って…見た感じ…」
スマホを取り出してしばらく操作した後、返ってきた数字は…
「高評価…3万、ここ最近で一番バズってるかも」
「まあ…知ってたよ。なんかのまとめサイトで見たし」
「そうなの?」
「確か…そう」
渚とスマホを覗いていると、後ろのドアからノックとドアの開く音が聞こえた。
「二人とも、お昼ごはん出来ましたよ」
そう言って部屋に入ってきたのは鷹崎紗月。
俺達を見ると、ウルフカットに整えられた銀髪を揺らして微笑む。
おおよそ子供を三人産んだとは思えない程スタイルは良いし、確か三十代後半にさしかかる頃合いだが、20代でも全然通用すると思う。
彼女は渚達の母親。
俺はこの人より料理が上手な人を知らない。
「はーい」
「…頂きます」
「ふふっ…その敬語はいつになったら無くなるんてしょう?」
「紗月さん、人の事言えないんじゃ…」
「私は誰に対してもこうですから。これが一番自然なんです」
「それなら…俺もそんな感じですよ」
他愛ない話をしつつ案内されながら食卓へ向かうと…
「おっ、来てたのか真」
「あー…どうも」
バッタリ湊さんと出会った。
この家はかなり広いのでバッタリ…であっている筈。
湊さんはこの家の家主で、凛月達姉弟の父親、紗月さんの夫。
基本的に落ち着いた性格で、何でも出来る天才肌。
めっちゃ頭良いし、少し前に片手で逆立ちしてる姿を見た事がある…筋トレにしてはハード過ぎじゃね?
流石、彼女達の父親と言うか、紗月さんを嫁にしたと言うか。
「湊君、お昼ですから、リビングに来て下さい」
「いつも、ありがとな紗月」
そう言って湊さんは紗月さんの頭を撫でる。
紗月さんは嬉しそうに目を細める。
その光景があまりにも自然だったので、違和感なく受け入れたが…よくよく考えると、30歳前半の夫婦だ。
仲良しってレベルじゃないんだけど?
まぁ、いい事…か。
「あの、いつまでやってるんですか?」
「んー?一生だよ。同じ墓場に入ってもイチャイチャしてるつもりだ」
えっ…同じ墓場に入る気してんの…?
「…そうですか…」
何言っても無駄っぽいな…と。
そう思った俺は渚を連れて、先にリビングへ向かった。
「お前の両親、仲良いな…相変わらず」
「かもね…。気にしなくて良いと思う」
「いや、そう言う事じゃなくてさ…」
なんか…うーん……なんだろうな。
何て言えば良いんだろうな。
共感性羞恥心って言うんだっけ?
んー…違うな。
単純に見てて恥ずかしいんだよな。
バカップル…?
…夫婦に対してはこれは、どう言えば良いんだろうな。
リビングにはもう凛月と美月が居た。
「あれ?お母さんは?」
「お父さんとなんかしてる。先に食べてて良いんじゃない?」
「そうかな…?」
「良いと思う…いただきまーす」
「ん…」
そう言って渚は先に食べ始めた。
続けて、何も言わずに美月が食べ始める。
こいつら自由過ぎるだろ。
なんつーか…こういう所はあの夫婦には似てなさすぎる。
一応、似てる面もかなりあるんだけどなぁ。
育て方の問題か?
「…何でも良いか…」
なんか、考えるのも面倒になって来た。俺は小さく「いただきます」と言ってから味噌汁を啜った…。
「……美味っ…!」
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