第11話 追いかけて、追いかけて
転移先は町の裏通りにした。
まず解けてしまっていた透明化の魔法を再度自身に掛け、男から距離を取る。
そうしてから、男に掛けていた拘束魔法を解いた。
放っておいてもそろそろ拘束魔法の効果が切れる時間だったが、魔法を解いた事実は重要だろう。
そのまま道に転がしておくのと、魔法を解いて解放するのでは、印象が変わってくる。
この男に良い印象を持たれる必要はないが、私の罪悪感の問題だ。
拘束の解けた男は、すぐに自身の身体に魔法を掛け、何も魔法が掛けられていないことを確認していた。
追跡魔法を掛けようか悩んだが、男が魔術師だったためやめておいたのだが、正解だったようだ。
男に転移魔法を使われると厄介だと思い、あらかじめ魔力は吸収しておいた。
しばらくすれば回復するだろうが、すぐには魔法が使えない。
男が組織のアジトまで徒歩で移動してくれればいいのだが……どうだろう。
普通なら転移魔法と徒歩での移動を繰り返して、アジトへの道のりの痕跡を消すが、この男は徒歩でそのままアジトへ行くのではないかと期待をしている。
「だって詰めが甘い組織みたいだから。失敗しちゃったよー次の作戦考えてーって、すぐに相談に行きたいだろうし」
こういう場合、期待は大抵裏切られるものだが、期待通りになってしまった。
男は徒歩でアジトまで向かったのだ。
「こんなの尾行してる私が驚くわよ。この組織、大丈夫なの?」
たぶん大丈夫ではない。
大丈夫な組織なら、こんなに簡単にはアジトの場所を追跡されないし、そもそもあの男は喋り過ぎだ。
私にあんなにペラペラ喋っておいて平然と組織に戻ってこれるのだから、組織としてずさん過ぎる。
私が手を下すまでもなく、崩壊しそうな組織だ。
そう。
私は組織を潰すために男を追跡してきた。
もしかすると、二度目の人生で魔物が国を占領したのも、ルーベンに『聖女の慕情』の能力を使わせるためだったのかもしれない。
三度目の人生で国に疫病が流行ったのも、『聖女の慕情』を使わせるために、国に感染源を持ち込んだのかもしれない。
いつだってこの国は、この男の所属する組織のせいで滅んでいたのだ。
「私に非が無かったとは言わないけど、それでも組織がある限り、この国に安寧はないわ」
それに、何より。
「組織にルーベンが狙われ続けるなんて、そんな未来は私が許さない!」
【side ルーベン】
遡ること三十分前。
ホールに集まった令嬢たちを、俺はホール上層の窓から確認していた。
「華奢で、銀髪で……ああ、俺は彼女の瞳の色すら知らなかった」
老婆の姿のときは紫色の瞳をしていたが、本当の彼女の瞳は何色なのだろう。
ホールを見ながらひたすら銀髪の女を探していたはずなのに、とある茶髪の女に目がいった。
瞳は紫色だが、どこからどう見ても茶髪……なのに、妙な確信があった。
彼女だ、と。
彼女はホールの端に控えていた使用人に何かを言うと、ホールから出て行った。
急いで彼女のあとを追う。
追いかけてから、彼女の行き先がトイレだと気付き、どうしようかと唸った。
トイレから出てくるところを待たれるのは、きっといい気分はしないだろう。
個人的な接触は諦めて、大人しくホールで他の令嬢たちと同じようにみんなの前で話しかけた方が良さそうだ。
そう思った俺が帰ろうとしたとき、彼女がトイレから出てきた。
なぜかこそこそと大きな花瓶の陰に隠れ、そしてスカートの中から杖を取り出して自身に魔法を掛けた。
杖を持ち込んでいたのか。
……城の警備体制を見直した方が良さそうだ。
しかし困った。
彼女が使ったのは透明化魔法だったからだ。
彼女と話したいという気持ちもあったが、それ以上に透明な状態で彼女が何をするつもりなのかが気になった。
「まさか、盗みを働くつもりでは……?」
彼女はそんなことをしないと思いたいが、ではなぜ城に杖を持ち込んで透明化魔法を掛けたのかと問われると、答えに困る。
しかし俺は魔法に詳しくはないため、これでは彼女の痕跡を追うことが出来ない。
「仕方ない。王宮魔術師たちに頼むか」
今夜は、思っていた以上に大変なパーティーになりそうだ。
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