石の中にあるのは…(仮)。

唯木の庭

プロローグ





ソレには周りを見る事が出来ない。ましてや動く事も自分を包む何かによってできはしない。出来ることは聞くことだけだ。


日々聞こえるのは獣の鳴き声とたまに何かが崩れるようなガラガラと転がる音だけだった。


それでも、ソレは自分が1つの何かであるという自意識が芽生えてからはひたすらに思考を続ける。



聞こえてくる獣の声の意味は?音はなんだ?自分のように自意識を持ったものは他にいないのか?


考え続けるソレには気づかない。ソレのように思考するのは生物しかありえないことに。

ソレが孤独感から思考を続けていることにすら…






ソレが思考を続けるうちに色々と理解していったことがあった。



獣は恐らく鳴き声を使い意思の疎通を可能にしているようだ。


しかし、残念ながらソレには意味を理解出来るほどの差があるようには聞こえず、音以外の判断材料もない為にソレは獣の意思を理解することを諦めた。


自分から何かが零れるような感覚を味わいながら…






獣の意志を理解することを諦めたソレはしばらく思考する事を辞めた。














長い時が過ぎ、ソレは再び疑問を覚える。


周りの音が変わっていたのだ。


獣の鳴き声と何かの崩れる音では無く、規則的に聞こえる音…いや、声だった。


ソレは何か込み上げるような感覚を覚え、それに従い、声を聞き続ける。


理解する為に。







しばらくして意味はわからずともソレは周りの言葉を理解して、ソレは自分から溢れるような何かに従って自分も音を…声を出そうとして気づく、自分からは声どころか音すらも発したことが無いことに。


音を発生させたことがあるのは自分を包む何かだけだ。自分が発生させたことはただの1度たりともなかったのだ。



ソレは再び何かが自分から零れるような感覚を味わいつつ…それでも周りの声を聞き続けた。







音を出す事が自分には出来ない。ソレは事実を受け止めて自分が出来ることを探す。



音を聞き、思考し、理解する。これ以外だと自分を包む何かを認識する事が出来ている。


あとは?


何が出来る?


何が…









ソレが思考を続け自問自答している間にまた変化が訪れる。聞こえるわけでは無いが、何かが自分をすり抜けたのだ。



なんだ?今のは…音じゃない。自分を包む何かでも無い。たしかに何かが自分に入って出ていった…



感じた何かに対してソレは必死にまた感じないかと…入ってこないかと集中する。すると、やはり何かがソレに入っては出るのを繰り返していた。さらに何かはソレの意思で多少だが出る際に変化があったのだ。



変化する…なら、これを使えば!




ソレは変化させる事で声以外で意志を交わす事ができる可能性を想像した。



いつも周りから聞こえる声はソレに1つの感情に気づかせたのだ。




孤独感。



周りのモノ達はいつも意志を交わし、時には荒々しく、時にはゆるやかに、時には賑やかに…そう楽しそうなのだ。


拙い言葉で話す声に他のしっかりとした言葉で話す声が感情というのを教えているのを聞いた時にソレはいくつかの感情は自分も感じた事のあるものだと気づいた。



そして、言っていたのだ。



独りはどんな生き物でも寂しくて辛い。孤独感と言われるのだが、これは気づかない者が稀に居るのだ。だがの、これは次第にその者を壊していくのだ。身体では無いぞ?心をだ。それを癒すには言葉を交わして仲間を、友を、大切な者を作れば良い。そうすれば、その心は言葉を交わして作った大切な者が癒してくれるのだよ。そして、逆もまた然り…だ。故に言葉を交わし縁を結べ。



ソレはこの言葉を聞いて思ったのだ。



大切な者が欲しい。

自分にも…意志を交わして……自分も誰かを癒し、癒される…そんな…縁が欲しい。

そのために…



そのためにソレは変化を試み続けた。とても長い時の中で。

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石の中にあるのは…(仮)。 唯木の庭 @tadakinoniwa

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