魔法戦争記 ~転生したら未来が見えるチート能力だったので魔法使い同士のバトルロイヤルで無双します~

憂木 秋平

第1話 家の扉が雪の世界につながっていた

 目が覚めると、視界一面真っ白な景色だった。雪が降っている。街灯なんてものはなくて、月明かりだけがこの銀色の世界を照らしていた。


「綺麗だな…。」


 あまりに幻想的な光景に少しの間、目を奪われていた。しかし、それも一瞬のこと。すぐに圧倒的な違和感が頭を埋め尽くす。


 確か、俺は、コンビニに行くために、夜、外出をして…。


 自分の家の扉を開けると、この一面の銀世界だった。今日の天気予報では、雪が降るなんて、1度も言われていなかったし、大体、この景色に見覚えがない。


「ここは、どこだ…。」


 いつの間に、自分の家の扉は秘密道具になっていたのだろうか。なんて冗談は置いといて、本格的に理解不能で絶対絶命の状況だった。


 後ろを振り返っても、当然のように、自分の家はない。携帯も持ってきてない。


 何故こんな状況になっているのかは、一旦考えるのを止め、ここがどこなのかを突き止めなければならないと思い、歩き出す。


 誰か人が居れば良いのだがと思っていると、前方に明かりが見えた。それは、月明かりしかなく、雪で視界も悪い今の状況で、文字通りに生きる希望の光だった。


 その光の方に向かって走り出す。


 そこには、一人の少女がいた。綺麗な長い黒髪で、透き通るとうに白い肌。歳は、俺と同じで、十七か十八くらいだろう。彼女は、月明かりを受けて、この真っ暗な世界の中で輝いているようにさえ感じられた。


 彼女は、こちらには気づいていない様子で、そのつり目がちな瞳を、真っ暗闇の方に向けている。瞬間、彼女が見ている方から、何かが飛び出してきた。


 それは、とても歪な形をした生物だった。いや、生物と呼んで良いのかすら怪しい。例えるなら、幼稚園児が書いた動物のような、現実ではありえない異形だった。


 それが、彼女に飛びかかる寸前、彼女の手から、その異形に向かって、クリスタルのようなものが投げられた。彼女が何か呟くと、そのクリスタルが大きな光を放ち爆発した。


 爆発によって、異形は跡形もなく消えていた。…と、その時不意に自分の目が痛んだ。


 瞬間、頭の中に映像が実感となって流れ込む。その少女が、後ろから異形によって不意打ちを食らい、噛み殺される、無残な映像。その三分ほどの出来事が、一瞬のうちに頭の中にたたき込まれた。それと同時に、その出来事が、今から三十秒後には起こるという確信が脳内に生まれる。


 気づけばその少女に向かって走りだしていた。少女まで後、十歩というところで少女はこちらに気づいて心底驚いた顔をした。何かを言おうとした少女をそのまま、押し倒す。


 間に合ったかと思ったのも束の間、脇腹のあたりに鋭い痛みが生まれる。どうやら、少女の代わりに、俺が噛まれたらしい。


 ふっと体から力が抜けて、意識が現実から遠ざかるのを感じる。少女が何かを言っているが、何を言っているのかが分らない。


 月明かりに照らされた少女と、降り続ける雪が視界に入る。それはまるで一つの絵画のようで。


 ───ああ、なんて綺麗な白なんだろう。


 その瞬間、意識は完全に途絶えた。最後の途絶える瞬間だけは、雪がやんだような気がしたのは気のせいだったのだろうか。


 

 目が覚めると、見たことのない天井が目に入った。天井だけでなく、寝かされているベッドにも見覚えがなかった。


 部屋の中は、最低限の調度品しか存在していなかったが、それでも豪華な事がわかる広い部屋だった。


 雪の降る銀世界での少女の事を思い出す。あれは、現実だったのか…。目が覚めたら、自分の家のベッドなんて都合の良い展開は訪れなかったようだ。


 体を起こそうとして、ひどく脇腹が痛むのを感じる。見ると、脇腹には包帯がぐるぐる巻きにしてあった。


 とにかく、状況を確認するために、脇腹が痛むのをなんとかこらえて立ち上がる。ここは一体どこなんだろうか。先ほどから目が覚めるたびに場所が転々としていて、紙芝居や人形劇の登場人物になっているかのような錯覚に襲われる。


 部屋の扉に手をかけると、扉は思いのほかすんなりと開いた。そうして廊下に出ようとした時、ちょうどこの部屋に入ってこようとしてきた人物とぶつかりそうになる。


「おっと、危ない。ようやく目を覚ましたんだね。ほら、脇腹が痛むだろう、無理に歩かずにベッドに横になっていると良い。」


 そう言って、その人物は手を貸してくれた。透き通るような銀髪で、肌も透き通るように白い美少女。歳は、俺と同じか俺よりも少し下くらいだろうか。軽い口ぶりとは裏腹に、表情はピクリとも動いていなかった。


 その少女に差し出された手を借りて、ベッドまで舞い戻る。わずか、一分足らずの探索が終わりを告げる。収穫はもちろん無し。


「さてと、君が目を覚ましたら聞きたいことがたくさんあるのだが、君はお腹は空いていないかい?」


 そう言われると、随分と空腹であるような気がする。


「君は眠っていたからもちろん知らないと思うが、君は丸三日眠り続けていたんだよ。質問には時間がかかるかもしれないから、空腹を満たすなら好機は今しかないよ。」


「…じゃあ、悪いけど、先に食事をもらえるか。…手持ちがほとんど無くて悪いんだが。」


「気にしなくて良い。困っている人を助けるのは当然のことさ。…では、少しの間待っていてくれるかな。」


 そう言うと、彼女はベッドの脇に置いてあった椅子から立ち上がった。


「そうそう、一応伝えておくけど、私が料理を取りに行っている間に、逃げだそうとだけは考えないでくれよ。ここは君が考えている以上に危険な場所だからさ。」


 それだけ警告のように伝えると、彼女は部屋を出て行った。あまり歓迎されてないようだ。気分は、捕まった重要参考人のような感じ。


 彼女は、質問したいことがたくさんあると言っていたが、俺の方こそ質問したいことがたくさんあるのだが、こちらの質問には答えてくれるのだろうか。

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