ルネ・グラナートゥムの緩やかな死
涙墨りぜ
第1話(お題:むかしばなし)
昔々、あるところに。「吸血鬼」と呼ばれる一族がおりました。
彼らはその呼び名の通り、人の生き血を啜って暮らす卑しい化け物共です。しかしどういうわけか、彼らは己の住まう土地を自らの領地として治める貴族の立場でありましたので、絶対的な権力を持ちそれに見合うよい暮らしを享受することができていました。
一族の城は数年に一度、新しい召使いを迎え入れるという名目で、領民の中からうら若き乙女たちを差し出させておりました。
人々の間では「吸血鬼の城に召し上げられた女は生きて帰ることはできない」「最後には血を吸い尽くされてしまうらしい」という噂が囁かれ、真偽のほどはといえばまさにその通りであったのですが、暮らしに困った領民たちの中には、大金ほしさに娘を城に売るような者もありました。
一族によって迎え入れられた生娘たちは城から出ることを許されず、吸血鬼の召使い……兼、食糧として、その血と命が尽きるまで飼われ続けるさだめなのでした。
……ここまでは、どこか遠い遠い国のむかしばなし。伝え聞く「吸血鬼伝説」のひとつにすぎません。
さて今からお話しいたしますのは、現代を生きる一匹の吸血鬼の物語。醜く卑しい呪いの血を携えた化け物、その最後の生き残り……わたくし、このルネ・グラナートゥムが緩やかな死を迎えるまでの、ささやかな日々の記録。
「……ンン。以上です。すべて打ち込んでいただけましたか」
「うん……で、なんこれ」
「わたくしの自伝です」
「いらんだろそんなん、実質永遠に生きるんだし」
「おや、わたくしの余命はそう長くはないと申し上げたはずですが?」
「……あんたが死ぬもんかよ」
「いえ死にますとも、きっとね」
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