私はバグのような存在なので、異世界に転生できるか怪しいです
@nenonezumi
いせバグ
私はバグのような存在である。
そう思ったのは、いつ頃だろう。
私は他人に認識されることもなく、はたまた全生物からも存在を認識されていない。
なので、生きた幽霊みたいなものである。
ただ、陰でこそこそと生きていたわけじゃないんだけど、いつの間にか誰にも存在を認識されなくなった。
最近起こった出来事で言えば、自動ドアの前で三十秒くらいウロウロしても、全く視認されなかったり、コンビニのバイトで値打ちをするも、他の人と比べて全く並ばれなかったり、自分が寝ている時、体の中が勝手にアリの巣になっていたりと、存在感がまるでないのである。
自分は、どんな存在なのだ!?
この出来事の積み重ねで、そう思ってしまったのが最近の悩みである。
あ〜、早く帰りたい〜。
今はコンビニでバイト中。
レジはもちろん、誰も並んでいない。
「あっ、最川(もかわ)さん」
「はい!」
「ん? 最川さん?」
「あ、はい!」
「最川さん、あれ、いない?」
すぐそこにいるよ!
距離で言えば、僅か数センチのところ。
店長がもう本当に眼前に迫っていた。
「最川さん、あっいた。もうバイト終わりだから、上がって」
あっ、もうそんな時間だったんだ。
「分かりました。お疲れ様でした」
「......」
というわけでバイトも終わり、急いで帰る準備をした。
こんな存在を認識されずに、アルバイトをし続けるのはかなりメンタルがすり減る!
よっし、家まで帰るぞ〜!
信号は青になり、ウキウキしながら、帰路の交差点の横断歩道を渡る。
だが、横から迫ってくる二つの光は、私を認識していなかった。
夜を照らし、明るい光を放つ鉄の四輪車にぶつかり、私はそこで、命を絶った。
---
「というわけで、あなたは異世界に転生されました。って、なるはずだったんだけど、残念ながら、そんなことは無かったね」
「え?」
驚くほど何もない、暗い空間。
そんな所に、ちょこんと立たされている私。
そして、そんな何もない空間で私と、私以外の誰かが、そこにいた。
「とりあえず、自己紹介だけするわ。私は女神。女神エグジスよ」
エグジス。
読みにくい名前だな〜。
「読みにくい名前って思ったでしょ? 今」
えっ、心の中読める?
「当然でしょ。だって私、女神なんだから」
明らかにさっき思ったことを返されたので、心を読めるのは本当なんだろう。
そうか、女神なら心を読むことなんて簡単なのか。
「それで、なんであなたが異世界に転生されないか、その理由は分かる?」
そもそも、死んだ後に異世界に転生されるんだってことを、初めて知った。
「そうね。異世界に転生させるかどうか決めるのは、私たちの仕事だから」
そうなんだ。じゃあ、普通は異世界に転生されるか、天国にいくけど、私はなぜかされなかったって事?
「そういう事よ。てか、何で喋らないの? そろそろ喋っても良いんじゃない?」
喋るより、こっちの方が早いかなって思って。
「どう言う事よ。まぁそっちの方が早いって言うんなら、それで良いわ。それで、何か原因を探ってるんだけど、あなた、人に存在が認識されないって悩んでたんですって?」
そうです。多分、高校生くらいの時から。
「えーっと、今は大学生だから、えっと......何これ」
女神は、何か資料を見て驚愕した表情をしている。
どうしました?
「あなた、過去に原因ありすぎじゃない? 小学生の頃は、なぜか登校中に服を脱ぎ、町を全裸でダッシュ」
ああ、それは開放感を感じたかったからですね。
「中学生くらいの時に、テニス部に入ったけど、テニスラケットを持って、卓球をする」
テニスと卓球で、格の違いをはっきりさせようと思いまして。
「高校の時は、合唱コンクールの本番に、指揮者から指揮棒を奪い、指揮をして、場をめちゃくちゃにする」
ちょっと指揮をやった事なかったんで、やってみようかなと思いまして。
「めちゃくちゃじゃない!」
え?
「これだよ、これ。絶対これが原因だよ! 存在が認識されなかったり、異世界に転生出来なかったりするのは、あなたが原因だわ!」
じゃあ、どうすれば異世界に転生できますかね。
「まずは、その性格をどうにかしよう。異世界転生っていうのはね、あなたのようなバグみたいな存在は転生出来ないの」
「そんなっ!?」
「初めて声が出たわね。それほど動揺してるってことかしら。だから、あなたの性格をどうにかする必要があるわけ」
「どうにかするって、どうすれば?」
「ん〜、そうね。とりあえず、過去の時間に戻って、やり直しましょう。その原因を作った過去に戻って、正しいことをすれば、あなたのバグは解消されるわ」
「そしたら、異世界に転生できるわけですね」
「そういう事よ。それじゃあ、過去に戻してあげるから、行ってらっしゃ〜い」
女神が気軽にそう言って、私に手を向ける。
すると、白く光る魔法陣が私を中心に描かれる。
その瞬間、私はあの黒いだけの空間から一変して、現実世界に戻る。
「うおっ! ここは? あっ、美憂ちゃん?」
ただ、そこは現代ではない。
間違いなく、過去の、私が小学生の頃、学校に登校していた時だ。
その時は、友達の美憂(みゆう)ちゃんと真由(まゆ)ちゃんと一緒に登校してたな。
懐かしい〜。
「無香(むか)ちゃん、今日は体操服持って来た? また忘れてないよね?」
幼い頃の美憂ちゃんが、話しかけてくる。
「よく忘れるよね〜。無香ちゃん」
それと、真由ちゃん。
無香(むか)ちゃんとは、私のことだ。
その時の私は、体操服をよく忘れていた。
多分、この時もなかっただろう。
一応、ランドセルの中身を確認してみる。
やっぱり、
「ごめん。無かった」
「もう〜。まぁ無香ちゃんは今日も忘れるだろうって思ったから、私の使って良いよ。二着持ってるから」
あ〜、そういえば懐かしいな。
こんな時、私こう言ったっけ。
「いや、別に借りなくとも問題はない。なぜなら、脱げば良い話だからっ!」
そして私は過去のことを思い出すように、服を脱ぎ始める。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「何で脱いでるのよぉぉぉぉぉぉ!」
「ダーーーーーーッシュ!!!」
そして私は、勢いに乗って走り出す。
『ストーーーーーーーーップ!!!』
すると、どこかから女神の声が聞こえ、またあの黒い空間に戻された。
「え? どうしたんですか?」
「どうしたんですか? じゃないわよっ! とぼけるなっ! 何でせっかく過去に戻ってやり直そうって言ったのに、また同じことするのよっ!」
「いやぁ、過去を思い出してしまって、つい......」
「ついじゃないわよっ! もう一回、もう一回やり直させてあげるから、この次は絶対に正しい事をするのよ」
「分かりました!」
本当に大丈夫かこいつ、と少し不安気な目をする女神だが、とりあえずまた過去に戻す魔法を使う。
「また戻った!」
「何言ってるの? 無香ちゃん。ほら、体操服貸してあげるから、これ使って」
「う、うん」
女神は正しい事をしろって言ってたけど、正しい事ってなんだろう。
服を脱ぐことが間違ってるなら、逆に着ればいいのか。
「ありがとう、じゃあ着るよ」
私はそう言って学生服を脱いで、
「ちょっと待って! ここで着替えるの!?」
「うん、その方が正しい事かと思って」
「いやいや、ここ外だよ!?」
と美憂ちゃんは言うが、私はそれでも構わない。
「何故なら、美憂ちゃんの香りが染み付いた服を、今すぐ嗅げるから! スンスン、あ〜良い匂い」
「えぇ〜......」
美憂ちゃんは、少し引いた。
「ちょっと待てい! お前は変なことをしないと気が済まないのかっ!」
すると、どこからか女神の声がしてまた空間が歪み、黒い空間に戻される。
「どうしたんですか?」
「また、どうしたもこうしたも無いわよっ! なんであなたはそうやって、すぐ脱ぎたくなるの!?」
「女神様なら分かりますよね? 元々人間は裸だったんですよ? なら、裸になりたいっていうのは一つの本能なんですから、しょうがないじゃないですか」
「しょうがなくないわよっ! 服くらいは着ろよ、現代人なんだから」
「じゃあ、女神様の言う正しい事って何なんですか?」
「普通のことよ。普通にしてれば良いのっ!」
「普通って何ですか?」
「......なんか腹立ってきたわ。あんた一体どんな生活してたら、そんな性格になるの? あのね、服は普通に借りて、授業前に着替えれば良いの。あなたはただ、それだけすれば良い。分かった?」
「分かりました!」
「少し信用ないけど、まぁ良いわ。次は最後だからね!」
そしてまた空間が歪み、過去に戻る。
「よし、次こそは正しい事をするぞ!」
「何言ってるの? 無香ちゃん。ほら、体操服貸してあげるから、これ使って」
「うん、ありがとう」
これで良いんだよね。
多分、女神の正しい事っていうのは、これを借りるだけなんだろう。
そう思いながら、体操服をバッグにしまう。
そして、美憂ちゃんと真由ちゃんと一緒に登校した。
そして登校しようとしてる最中、あの黒い空間に戻る。
「おっ、戻った」
「ふぅ、ようやく普通の事が出来たわね。良かった、良かった」
「じゃあこれで、異世界に転生出来ますかね?」
「そうね。あんたと関わると、なんか女神の品が下がりそうだし、もう良いわ。異世界に転生させてあげる」
女神が私に手を向けると、私を中心に今度は、ピンク色に光る魔法陣が描かれる。
よしっ、これで異世界に転生出来る!
「あっ、一応言っておくけど、異世界に転生しても、もう絶対に変なことしないでよ?」
「はい、もうしませんとも。あれだけ過去でやり直してきたんですから、異世界でも正しい事をするつもりです」
「あれだけっていうけど、まだ二回程度しかやってないからね。なんか最終回感出してるけど、そんな性格矯正してないし、それならとりあえず異世界でも矯正できるだろうから、そんなわけで」
そんな細かいこと良いから、はよ転生させやがれ♪
「やっぱ信用できねぇわ! 異世界で反省してろ!」
彼女は爽やかな笑顔で、その言葉を思念で伝えてきたため、女神は呆れながら彼女を異世界に転生させた。
---
「オギャー! オギャー!」
そして私は、生まれ変わった。
本能的に出た泣き声とともに、母親らしき人に抱かれながら。
それともう一人、自分の隣で泣いている赤ちゃんがいた。
ベッドに一緒で寝かせられてる事を考えると、双子で間違い無いだろう。
そうか、転生後は双子か。
何となくだけど、中世ヨーロッパっぽい感じの部屋で、金髪で青々とした碧眼を持つ、たぶん母親。
それと、日本人っぽい黒髪に黒い瞳の、たぶん父親だろう。
ベッドで抱き抱えられながら、私は健やかに寝かせられた。
双子になると、その子と一緒に寝かせられる事がある。
父親と母親が寝静まった深夜、私は何か音がするなと思い、目を覚ました。
何か聞こえてくる人の声が気になり、その声に向かって、匍匐前進で歩いていく。
すると、赤子の姿をした何かが喋っていた。
いや、あれは本物の赤子か。
確か、あれは双子だったような。
「何で私も異世界に転生されるのぉ!? 私、女神なんだよ!? 天国か異世界に人を転生させる女神なんだよ!? なんで!?」
と、空に向かって謎に叫んでいる。
赤ちゃんでもこんな流暢に喋れるってことは、私と同じ転生者なのかな?
一応、聞いてみることにした。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもって、はぁ!? 何で、ここにあの双子が!? って、私の声に反応して来たのか......。ごめんねぇ、起こしちゃったねぇ」
まるで、母親が赤子に話しかけるような口調で、赤子の私に謝る。
「いえいえ、私はただの赤ちゃんじゃないですので、そんな口調にならなくて良いですよ?」
「うんうん、ただの赤ちゃんじゃないんだからって、えぇ?」
「ん、どうかしました?」
「あぁ......!」
まるで、赤ちゃんが喋った!? とでも言うかのようなリアクションを取る。
「もしかして、あんた、転生者......!?」
「そうですよ?」
「もしかしてって二回も言うけど、最川って名前?」
「そうです、わたし最川です」
「やっぱりかぁ〜! だから、バグって私も転生してきたのね」
「あっ、もしかして私を転生させた女神ですか?」
「そうよ。まさか、こんな事であんたと一緒になるとは思わなかったわ。はぁ......。あっ、ちょっと待って」
女神が分かりやすくため息をついた後、ふと何か考えだして、顔が青ざめる。
「私とあなたは双子。ということはつまり、私はあなたと一緒に何年も生活しなきゃいけなくなる!」
「それが、どうかしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、こんなヤバい奴と一緒にいたら、私の神聖なオーラが汚されるのではっ!?」
「良いんじゃないですかそれで。もう人間なんだし」
「良くない! 良くないのよぉ!」
これで、私を認識してくれる存在と一緒になれた。
だが、それと同時に始まったのだ。
「何で、私も異世界に転生されるのよぉ〜〜!!」
私と女神による、異世界バグライフが。
私はバグのような存在なので、異世界に転生できるか怪しいです @nenonezumi
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