24.戸惑って
飛び掛かる人狼。それをいなして真剣な表情で腰の剣を抜こうとするジル。
対峙する神父はあっという間に全身毛むくじゃらになってしまっていた。もう服くらいしか面影もない。
狼頭と太い前足を持った元神父は、ジルの喉元に噛みつこうと牙を鳴らして興奮している。
「メイカさん……っ!」
「だめ! 危ないから下がって!」
目の前で起きている緊急事態。予想外の展開。
神父が魔物に変身したことを受け入れられずに混乱するコルフェ。
私は彼の手を強く引っ張って背後に隠した。
「メイカさん! 神父さまは……神父さまは、どうなっちゃったんですか……なんで……? あれは、なに……?」
焦って泣きそうな表情をしてるにちがいない。
私の背中と腰のあいだ辺りに抱きつきながら震えているコルフェをなだめようと、かける言葉を探す。
ゲーム画面ではデフォルメされてたし大したことなかったのに、いざ目の当たりにした人狼は迫力があってかなり怖い。
こちらを見ていないとはいえ、数メートルの近くに存在することで命の危険を感じさせる。
人狼の牙も爪も、見れば見るほど鋭く研がれている。
人に血を流させる武器だ。ヒトを殺すための凶器だ。
コルフェが魔物に怯える気持ちはわかる。私も震えてるから。
「だ、大丈夫。大丈夫よコルフェ!」
うまいことが言えないくらい私も焦っている。
やっとそれだけ言葉に出したところで、彼を納得させられはしない。
人狼と化した神父と取っ組み合いになってしまっているジルが叫んだ。
「神父殿は魔物の呪いで人狼にされてしまっているんです! ご婦人方はお逃げください! ここは俺に任せて! 離れて……!」
勇ましい声で自分を鼓舞し、人々を脅かす魔物と戦うのは騎士の務め。
それを体現するジルは、身を挺(てい)して私たちを守ろうとしてくれていた。
鎧にタックルをかましてくる人狼を受け止めると、自慢の馬鹿力でそれを捕まえて押し返す。
「さあ! 行ってください! 早く!」
腕を掴み、睨み合う人狼とジル。力は互角か。
どちらも譲らなかったが、私たちに呼び掛けたタイミングでジルは敵への集中が削がれて。少し押され気味になってしまう。
ジルが人狼をあっさり打ち負かすとばかり思っていた。ゲームのように簡単にはいかないんだ。冷や汗が出てきた。
ジルともあろう人物が魔物一匹に負けちゃうなんてことはありえないだろうけど、
(ああ! 剣を抜く隙さえあればあんなやつ……! ジルの実力だったらさっさとやっつけちゃえるのに!)
そもそもどうしてジルは剣を抜かないのか。抜くチャンスは神父が現れてすぐだとか、何秒か前にはいくらでもあったのに。
人狼は魔物に変貌するまで神父だった。だから迷っているのかもしれない。
ジルは攻撃するのをためらってるように見える。
おそらく、教会騎士として教会に従事する聖職者を斬ったりなんかできないって思ってるんだ。
ましてや私やコルフェが側にいる。非力で守るべき民たちに残酷な場面を見せたくないんだ。
殺す以外の解決法を探しながら、私とコルフェを逃がすことを最優先にしたがってる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます