8.慰めてくれてる?

不安げなコルフェを更に怖がらせてしまった。

彼を救い出すと決めたばかりなのにこれじゃだめだ。


「なんでもないよ。行こう」


「でも……」


彼を抱き締めるようにして抱える腕に力を入れ直す。

すると何か温かいものが涙の上から私の頬に触れ、


「……!」


ハッとして見れば顔を近付けていたコルフェが私の頬に伝う涙を舌ですくっていた。

柔らかな薄桃の唇を使い、優しい口付けで私を慰めるように。

小さな小さなキスをしてくれていたのだ。

ないしょ話のようなくすぐったい感触に、溢れていた涙が自然と止まる。


(なんで……?! 待って?! これって見ず知らずのモブにすること……?!)


言葉よりも積極的なコミュニケーションを彼のほうからとってきた。

信じられないコルフェの行動に私は頭がパンクしそうになる。


私は大金を払って神父を裏切り、意味不明なことを言ってコルフェをそそのかし連れ出した。

わかりやすく平たく言ってしまえば誘拐犯のたぐいである。

助けてあげる。なんて言っておいて、あてもないくせに自分のトラウマメイカーとしての役目を投げ出してしまったとんでもない奴だ。


私はこの世界にとって異質(バグ)なのだ。


それなのに、どうして。

コルフェは優しい笑みでそんな私を慰めてくれる。

信じられない彼の行動に、さっきまで出ていた涙は全部引っ込んでしまった。


それと同時に私は有り余る妄想と想像力をかきたてられて息をのむ。


(まさか……私がコルフェの人生を変えてしまったから……? こんなことになってる?)


これはあくまでもまだ、そうだったらどうしようの予想に過ぎない話だが。

トラウマメイカーの私がトラウマを植えつけなかったことによって、コルフェの人格が変わってしまったのかもしれない。

既にその影響が出てしまっているのかもしれない。

だとしたら、私のバグがイレギュラーな事態を引き起こしているのかも。


「……コルフェ?」


「泣かないで欲しいな。僕、お姉さんのこと好みだし、つらそうにされたら悲しいです」


彼はとろけたような表情で私にほほえみかけている。

あどけない少年が見せるような表情にしてはちょっと色っぽい。

不似合いなくらい艶やか過ぎる。


小さな推しの貴重な声変わり前の少年ボイスを吐く彼の、未熟な喉仏のへこみが上下する。

耳元で囁かれ、どきん。と、思わず心臓が跳ねてしまった。


そして、同時にあることを思い出して身体中の血の気がさーっとひいてゆく。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る