流されて無人島:何度島流しにしても寄り道してくる

無人島にひとつだけ持っていくなら、とかいう質問するやつは大体話がつまらない

「というわけで、無事無人島へと島流しだ」


「全然良くありません、私達はともかく、真犯人であるヘラ様は身ぐるみ全部剥がされてます」


「誰が真犯人じゃい、それでも我はやってない!」


「ぬおあああ、こんなとこでドレス着ててもなー、美味そうな男なんて寄ってこねーっすよー!」


 潔いのか悪いのか、海の方を見つめてちょこんと三角座りの漂流者スタイルを決め込むグロリアと、こうなってしまっては機能性皆無なただのひらひらした服でしかないドレスの裾を、ブーブー不平不満を垂れ流しながら鬱陶しそうにびりびりと破り捨てるオフィーリア。


 そう、我らが放り出されたのは、雲一つない快晴の青空! 照り付ける熱い日差し! 煌めく白い砂浜! 澄み渡る海! めくるめく冒険の予感!……とかいう幻想を打ち破るほどに、何もない無人島だった。いや、前半のもあながち間違ってはいないが、さすがにそんな気分でもない。カワイイ水着もないし。


 そして、きらびやかな海からなんとか目を背けてみれば、荒々しい原生のジャングルのその先、奥に見えるのはこの小さな島の真ん中にそびえる険しい火山。鳥や獣の不穏な鳴き声に、これは冒険というよりは、めくるめくサスペンスの予感がするな? 推理モノはもう終わったぞ。


 今頃真犯人と一緒に船旅を楽しんでいる乗客達は悲惨なことになっているかもしれぬが、ま、船を降りた我らには関係ないことだ。濃ゆい顔のムキムキの料理人でもいればなんとかなるたろうか。


「これはこれで楽しそうじゃないか、うはは、ここを我が魔王軍の領地とする!」


「こんなしょーもない無人島なんて誰も欲しがりませんって」


 高らかに宣言するもオフィーリアとグロリアらのリアクションはイマイチだ。え、どうした? いつもならノリノリで付いてくるのに?


「おいおいおいおい、どうした、そんなつまらなさそうにして。前人未到の無人島だぞ、ワクワクするだろうが!」


「アタシはそうでもねえっす、潮風と湿気でベタベタするし、シャワーも浴びれないじゃないっすか」


「砂が身体に入るのはとても気持ち悪いです、日差しはお肌とスライムの天敵です」


「ここにきて女子のそういうところ出ちゃったよ!」


 マジかよ、無人島でワクワクするのはどうやら男子だけらしい。いくら身体は激カワ美少女でも深く刻まれた男子の魂は健在らしい。オラ、ワクワクすっぞ!


「これはいわゆるサバイバルってやつだ! 我、一度やってみたかったんだよ、無人島からの脱出って」


「そんな冒険に憧れる女児みたいなキラキラした眼差しをしていると、私達が襲っちゃいますよ」


「森の猛獣より怖いわ!」


 しまった、すっかり失念していたが、今我は治外法権の無人島で性欲の獣と一緒にいるのだった。ここまで泣く泣くカットしてきた旅の中でも、今まではなんとかモブの介入とか光魔法のカットイン、様々なアクシデントや我の魔法やらで貞操の危機を回避してきたが、ここではそういうラッキーは起きないかもしれぬ。今まで以上に気を引き締めないとな。


 改めて我が気合い入れとる横で、念入りにケアした長い爪に挟まった砂とうんざりしながら格闘していたオフィーリアはというと、


「ねー、ヘラ様ー、早く転移魔法で宿屋があるとこに行きましょうよー、身体中ベタベタっすよー」


「バカ野郎、せっかくの無人島だぞ、我らが新たな文明を築くくらいの心持ちでいないでどうするのだ!」


「ってゆーか、文明を作るのか脱出するのか方針はっきりしてくださいよ」


「こういうのはな、とりあえず生き抜くためにサバイバルをしつつ、余裕が出てきたら脱出も目指すのだよ」


「無駄のない無駄な動きですね」


 く、くう、こやつら、この壮大なロマンも理解できぬのか。これだから、女子というやつは。い、いや、いかんな、今の時代、多様性とか男女の違いとかそういうのを出すとすぐに炎上してしまう。安心してください、この作品は新たな時代の多様性に配慮しています。


「そうと決まれば、まずは飲み水の確保だ、池とか川を探そう!」


「何一つ決まってねえっすよ?」


「私達は魔物なので水を取らなくても生きていけます。飲み水というよりは身だしなみのための水が欲しいです。スライムの99.9%は水で出来ています」


「サバイバルの根幹から全否定するじゃん」


「魔力さえあればある程度生きられますからね、アタシ達魔物って。ヘラ様がぬるぬる垂れ流してる濃厚な魔力だけで十分イケるんすよねー」


「なんか言い方がイヤだ」


 ぺろりと舌なめずりするふたりから一歩後退。足元でぱきっと小枝が鳴るのすらビクッと反応してしまう。


「そんじゃ、ヘラ様、転移魔法をお願いしますねー」


「さっさと文明の素晴らしさを享受しましょう」


 な、なんだ、こやつら。完全にサバイバルする気ないじゃん。せっかくの冒険の予感、めくるめく壮大なスペクタクルの幕開けかもしれないんだぞ。ここは完全に冒険でしょでしょ! そういう流れでしょ!


「うぅ、行こうよー、ねええええ、お願いだからサバイバルしよーよー」


「私達が素っ気なくし過ぎて幼児退行にて対抗しようとしてますね」


「これはこれで悪くないっすね」


「仕方ありません、こんなに可愛いヘラ様のお願いです、断るわけにはいきませんね。では」


「そうだな、ま、それじゃ最初はグロリアに譲るよ」


「いえ、お愉しみはみんなで共有しましょう、ヘラ様の可愛さは誰の物でもありませんから」


「……ね、ねえ、さっきから何の話?」


「なんでもありませんよ、ヘラ様。ちょっと私達の本能が子宮辺りで疼き出しただけですから」


「不穏!」


 無表情ながらメガネの奥でにんやりと笑うグロリアの言葉にぞわりと寒気を感じながら、ずさささッと後退。


「はああああああ、わかりましたよ、ヘラ様。ちょっとだけですよ」


「先代魔王に対してすごいクソデカため息吐くじゃん。あと、ちょっとだけって何? グロリアの中でサバイバルってそんなアミューズメント感覚なの?」


「私達は道具をひとつも持っていませんが、ヘラ様の魔道具コレクションを顕現させる気は……」


「微塵もない!」


「ですよねー」


「ここで青いネコ型ロボットの如く便利なアイテムを出してしまったらサバイバルの醍醐味がなかろうぞ」


「そう言うとは思っていました。では、水源を探すのは明日からにしましょう。森で日が落ちて暗くなっては遭難してしまいますし、野獣に襲われかねません」


「暗がりで怖いのはむしろキミ達の方だけどな」

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