「ここにいる皆さんは3人以上になって捜索してください。決して一人になってはいけません」


 な、なんだ、この探偵風情の優男は。いや、探偵か。我を差し置いてすごい取り仕切るじゃん。主人公は我だぞ。


 夜もすっかりと耽ってしまい、景色は月が照らす星明りだけとなり、波の音色すら心地よい子守歌となるはずの時間。


 そんな優雅なひと時のはずだった。それをあやつときたら余計な面倒を増やしおって。ただでさえグロリアもこんなしょーもないことになって、人間どものくだらぬ犯人探しに付き合わされているというのに。


 とにかくだ、オフィーリアなら平気だろう。あやつだって魔物なんだ、夜のサキュバスは描写できないほど強いしどちゃくそエロいんだぞ。


「女性や子どもは自分の部屋にいてください。そして、決してドアを開けないでください」


 む、むう、指示が的確じゃあないか。女こどもを気遣うイケメンぶりも発揮しやがって。悔しいが、モブである我が推理モノで探偵に勝てる要素は何ひとつもない。探偵はいかなるときもスマートで気遣いができてカッコいいのだ。


「ねえ、お嬢さん、貴女も私達と部屋に」


「我は平気だ! おい、付いてこい、ワトソン君!」


「え、ボ、ボクですか?」


「当たり前だ、貴様は今から我のひょうきんな助手なのだからな」


 なぜ急に我からの当たりが強くなったのかわかっていないワトソン君は、きょとんとしながらも我の後ろに付いてくる。有能なのか無能なのかわからんな、こやつ。


「……ねえ、やっぱり部屋に戻りませんか、ヘラちゃん。危ないですよ」


「我の仲間が殺され、もう一人は行方不明で探偵には犯人だと疑われているのだぞ。じっとしてなぞいられるか」


「それはそうですが、ヘラちゃんみたいな可愛らしい女の子に危ないことをさせるのは気が引けて……」


「なんだ、文句でもあるのか? 助手のクセに」


「助手になった覚えはひとつもありませんが」


「ふふん、安心して震えて眠れ。我は、身体は美少女、頭脳は大人、その名も」


「それ、どんなことがあっても絶対に秘密にしとくやつじゃないんですか?」


「む」


 あれは。


 ……おいおい、ウソだろ。いや、ウソだろ!


 暗い視界の先に見覚えのある黒ギャルが倒れている。ワトソン君はまだ気付いていない。魔界の住人、闇の魔族である我の視界は暗いところでも人間より良く見えるのだ。


「おい、ワトソン君、貴様はそっちを見てくれ、我はこっちを見てくる」


「は、はい、気を付けてくださいね、ヘラちゃん」


 ワトソン君は何の疑いもなく廊下を曲がって行く。さっきまで我の心配してたのに、さてはあやつもバカなのか?


「……で、キミは一体こんなとこで何してんの?」


「へ、へへへ、やっちまいました、ヘラ様」


「ちょっと黙っててくんない? ここでキミに生きられてるとマズいのだ」


「ひっどー」


 というか、何なん、こやつら。先代魔王たる我の護衛としてあまりにも頼りなくない? 死にすぎじゃない? マジで何やっちゃってんの?


 我が冷ややかに見下ろす視線の先には。


 廊下でぐっちゃんぐっちゃんのべっちょんべっちょんになっている、見るも無惨なオフィーリアの姿。完全に見せられないよ!


 ……いや、マジで何してんの? ここまでいい感じでR18的なやつは回避してたのに露骨なの出してきやがって。これで規約違反になったらどうするつもりだ! 子どもだって見てるんだぞ!


「早くそのきったねえ白い粘液を綺麗にしろ」


「ういーっす」


 オフィーリアは足腰が立たないのか、ビクンビクンと時折痙攣しながら、身体中にかけられた白くてイカくせえやつをれろりと舐め取る。……エロエロの権化であるサキュバスをここまでさせるとは一体。


「で、犯人はどこのどいつだ?」


「あー、それは……」


 こやつをここまで○ったやつこそ、あるいはこの連続殺人事件の真犯人に違いない。いや、あってくれ。殺人犯に強姦魔、頭のおかしい狂人が複数いるとかマジで勘弁してくれ。


 今度こそオフィーリアから犯人を聞き出す。そして、この茶番劇を我の華麗な推理でキレイさっぱり終わらせてやるのだ。


 しかし。


「ヘラさん、どうしたのですか。おや、まさか、そのお方は」


「お、おい、さっさと死んだフリ!」


「は、はーい」


 あ、咄嗟に殺されたことにしちゃった。く、くぅ、なんて絶妙なタイミングで現れるのだ、これだから探偵というやつは!


 やべぇ、ややこしくなってきちゃった。我、第一発見者じゃん。


「わ、わからぬ、こやつはここに倒れていて、それを我がたった今見つけたのだ」


「そうですか」


 探偵はオフィーリアの横に屈むと首元に右手を添える。


 サキュバスは相手のどんなプレイにも対応できるように自身の身体を自由に操作できる。それこそ、人間の精気を絞り出すために、あんなことやこんなことも、サキュバスなら可能なのだ。


 きっとオフィーリアは限界まで心臓や脈拍を弱めて仮死状態にしているはずだ。


 探偵はしばらく脈を確認し続けている。オフィーリアよりも我の心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほど、むしろこちらの方が緊張している。ずいぶんと長くないか、そう思えてしまうほどに探偵に動きはなかった。


 永遠とも思える、まるで空気が硬直したような時間が経った後、探偵はオフィーリアの身体をそっと寝かせると、ゆっくり立ち上がった。


「残念ながら死んでいます」


「そ、そんな……」


 などと狼狽えてみる。いや、実際に動揺しているのは間違いない。どうしてこんなことになってしまったのだ。


 我の周りのふたりがピンポイントで殺され(死んでない)、しかも第一発見者となってしまった。


 これでは我が間違いなく事件の中心的人物だ。


「こ、これは……」


 ワトソン君、遅れて登場。我らが見下ろす視線の先を見て、清々しいほどの驚愕しきったリアクションをしてくれる。


「僕には真相がわかりました。ワトソン君、皆さんをメインホールに集めてください」


「は、はい!」


「もはや、助手、というより体のいいパシリだな、ワトソン君」


 しかし、探偵はこれだけの情報で犯人がわかっただと? これは完全にやっちまったか?

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