熱い夜の過ち

 そんなこんなで、ステラの遠征に同行することになり、そして、その夜営にて。


「ワタシも一緒にここで野営しますわ」


「え、なんで?」


「親子で寝るなんて当たり前ではありませんこと?」


「それは年齢とか性別によるのでは?」


「あら、今のお父様はワタシと同世代の姿、しかも同性ですわ。ほら、何も問題ありませんわね?」


「倒錯がすぎる!」


 我の焦り散らかしたツッコミなど聞く耳持たず、はらり、羽織っていたカーディガンをそっと脱ぐと、薄いネグリジェだけをまとったステラが我に迫る。自分の娘のそういうの見たくないんだけど!?


「ちょ、ま、ちょ、待てよ!?」


「あら、お父様恥ずかしがらなくても良くってよ?」


 狭いテントと油断、そして、意外に素早い動きから逃げる間もなく上からのしかかられて、無理やり起き上がろうとしても、それを封じるように両手を頭の上で押さえ付けられ、するりと足を絡め取られた。く、身動きができぬ。


 し、しまった、寝る気満々だったせいで我も薄着だ。ステラの欲情を煽ってしまったのか? このじつに少女らしい慎ましやかな身体のどこが魅力的なん? いや、待て待て、娘に対して無防備でどこがいけないのか。油断も隙もない家族って大分殺伐としてやしないか?


 しかし、今まさに起きていることは我が油断が故に引き起こしてしまったもの。こうして下剋上とは起きてしまうのか。……などと、諦めの境地に至ってる場合ではない! 我が貞操が娘によって奪われそうになっているのだ、これは完全にアウトやろがい! こちとらギリギリR15で踏みとどまってるのだ! ここで諦めたら試合(意味深)終了ですよ!


「ね、ねえ、ステラ、そういうのじゃないよね。というか、我、キミの父親ぞ? なにもかもマズいと思うなー、我」


 ステラの力が思った以上に強い、かなりマズい体勢から全く身動きが照れぬ。身をよじればよじるほど、我が足の狭間に差し込まれたステラの太ももがぐいぐい侵入してくる。ふにんっと感じる柔らかなステラの胸のふくらみが、我が堅牢なる理性を壊そうと迫ってくる。ほとんど下着姿で両足を閉じれないこのはしたない体勢はなんだか気まずいし恥ずかしい!


「いいえ、構いませんわ。お父様は強く逞しくカリスマがあって無慈悲で容赦ない、そう、ワタシの憧れでした」


 遠くを見つめるような眼差し。その真紅の瞳に、どこか正気の沙汰ではない何か鬼気迫るものを感じるのは我だけだろうか。ねえ、憧れの中に混入してるその想い、なんかおかしくない?


「そんな憧れのお父様とイチャイチャラブラブしたいと思うのは当然じゃありませんか? しかもッ、今はッ、美少女ッッッ!!!」


「いや、何正論パンチ繰り出したと思ってドヤってるの!?」


 ステラ、目怖ッ。


 そんなのがいいわけがない。父と娘で致すのは完全にアウトだ。これは引退魔王のお忍び領地査察紀行だぞ。健全で安全で王道の冒険ファンタジーのはずだ。申し訳ないのですけど、R15で満足できないお方は帰ってくださいですの! いや、そもそも致さない!


 マズいぞ、我という存在そのものがステラの性癖に刺さりまくっている。


 百合にTS、そして、ロリにNTR、ついでにお父様萌えも発症していたとは。これは完全に重症、暴走状態だ。あれ、我、無自覚に性癖ロイヤルストレートフラッシュ叩き付けているじゃあないか!


 ステラの望んだ展開になりかけている。まるでステラの策略であるかのように……ハッ、ま、まさか。


 我が魔王という称号をステラに引き継ぎ、領地を査察しようと考えていた時からステラはこの計画を企てていたというのか。


 思わずステラの顔を見上げる。


「あら、どうやら気付いちゃったみたいですわね、ワタシの愛しいお父様」


 にやり、汗ばんで上気した頬、獲物を目の前にギラギラと輝く、完全にハートマークが出ちゃってる赤い瞳、そして、甘く荒い吐息。こやつ、キ、キマっておる。


「失礼します、ステラ様、今お時間よろし……あ、し、失礼しました!」


「ま、待って、助けて! どこの誰か知らんけど察してないで助けて! ねえ、ちょっとお願いだから行かないで! ちょ、ステラもちょっと待って!」


「待ちません! ワタシがどれほどこの時を待ち望んでいたか!」


 こやつ虎視眈々とこの機会を狙っていたのか。ステラ、恐ろしい子。せめて、そういうのは我がバ美肉する前に言ってよ!


 ゆっくりと接近してくるステラの表情が、どこか獲物にかぶり付く前のように嗜虐的で、我に覆いかぶさり、密着して紅潮した熱が伝わるしとりとした身体は蠱惑的で、こ、これは本気で殺られ、いや、ヤられてしまう。く、悔しい! む、娘なぞに!


 し、仕方ない、ここで使いたくはなかったが、最後の手段だ。く、これを我が娘に使おうとは思わなんだ。


「さ、最上級究極完全態暗黒魔法!!」

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