“好き”って気持ちに、種族も性別も関係ないんだょ

「いやいや、僕ちゃんは魔王様を裏切ることなんてしないってー。僕ちゃん、魔王様好きだもん」


「え……!?」とぅんく。


 え、何、この展開。ドロドロに爛れきった百合ばかりだと思っていた物語に氷でできた青い薔薇が咲き乱れようとしてるのか? す、すごくイヤです。「キャー」ちょっと静かに色めき立った悲鳴上げるのやめて、オフィーリア。決して何もないですよ。


「え、どーゆーことっすか、詳しく教えてください、エイブンジャック様!?」


 オフィーリア、めちゃくちゃ食いついてるじゃん。こやつの性癖は全方位範囲攻撃か? 死角はなしってか、やかましいわ。


 すると、エイブンジャックはふと遠くを見つめるような眼差しとともに、ちょっとだけ頬を赤らめてはにかんだように小さく笑う。


 え、何それ、完全に恋する乙女の反応なんだけど。イケメンがそういう表情するの完全にアウトだからね、みんな惚れちゃう奴だからね? で、我、また何かやっちゃいました?


「魔王様はめちゃ強くてバチクソにカッコよくてさー、僕ちゃんなんかにこの領地を任せてくれたスゲー方なのよ? 僕ちゃんがそんな魔王様を裏切るわけないっしょ」


 地上を任せた者達は我が魔王を引退したことをまだ知らぬ。


 つまり、こやつの言葉に嘘はない。端から陽キャとは裏表のない輩ばかりではあるが、その言葉が嘘偽りないことはこやつが陽キャだからとかは関係ないように思えた。(身体目的ではなく)我をこんなにも純粋に慕ってくれる者がいようとは。


「う、うむ」


 いや、まあ、こうなると話が変わってくるじゃあないか。へっ、うひっひ、仕方ないなぁ~、こやつの忠誠心に免じて今までの狼藉とか温泉回が無に帰したことも許してやろうかな。


 よし、こやつの評価は、良好!


「めちゃ嬉しそうじゃないすか、ヘラ様」


「そ、そんなことないわい!」


 ま、まあ、竜人もこやつがうまくやれば我が手駒として利用できるかもしれぬ。


 こやつは殲滅とはまた別の選択肢があるのだと教えてくれたのだ。……そうじゃないかもしれぬが。陽キャの考えは我には到底理解できぬ。


「魔王様になら僕ちゃん抱かれてもいい」


「ごふぁッ!? な、なななな何を言っておるのだ、貴様!?」


「魔王様はマジでイケメンなんだって、キミ達だってそう思うっしょ?」


「いやーんッ、これはキマシタわね、ヘラ様! こんなこと言ってくれるイケメンが全裸待機してるんですよ、イくしかないっすよ!」


「何を勝手に盛り上がってるんだ!? わ、我はおt……いや、今は美少女か。いや、そういう問題じゃない!」


 さっきまでの話は撤回だ、なに言ってんのこやつら!? 危なく流されるところだったじゃん! 危ないよ、我は先代魔王、ここで美少女としてこれ以上の醜態を晒すわけにはいかぬのだ! TSの醍醐味とやらは断固拒否!


「ということで、魔王様の話なんて置いといてさ、キミ達も僕ちゃんと、ヤ ら な い か ?」


「それはまた別の」


「わおッ、おけー、ヤッちゃいますか!」


 マ、マズい、こやつら、チャラ男と黒ギャルの血が騒いじゃってる! これだからパリピは嫌いなのだ! もっとこう、そういうのはさ、お互いにとって尊くて崇高な行為であって、気軽なコミュニケーションと同一視するのは、我、ちょっと違うと思うな!


「そういうお堅いこと言ってるからヘラ様は童貞なんすよ、あ、処女か」


「えー、キミみたいな風紀委員長ちゃんでも乱れちゃうのがサイコーだよねー」


「どどっどどど童貞ちゃうわ!」処女ではあるかもしれないのでそこは否めず。


 そうして、この氷の洞窟さえも溶かしてしまいそうなパリピの、真夏のJamboreeのように熱い交わりを見ていられず、我はグロリアを引きずって洞窟を後にした。


 ……まともなやつはこの物語にはおらんのか。


 やっぱり陽キャは滅びるべきだわ。

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