第5話 様子のおかしい枝元さん
「おはよう、野々山君」
冷淡で、こちらに視線すら合わせない余裕のない返事。
早退をしたあの日から枝元さんの様子がおかしくなっていた。
何かの選択を迫られているような緊迫した表情で、それ以上話しかけることは僕には出来なかった。きっと本当の友達ならば聞いただろうが僕はしなかった。
「枝元!」
授業後、担任の先生が後ろの扉から手招きする形で枝元さんを呼んでいた。
枝元さんは立ち上がった。
「ん?」
何も言わずただじっと僕の顔を一瞥して、教室を後にした。
今思うと、あの瞬間に枝元さんの中で考えは出来上がっていたのかもしれない。
僕はいつも通り、屋上にてヘッドホンを装着して昼休みを過ごした。
学校内で、まさか自分を呼び出している校内放送が流れているなんて知らずに。
【今週も、またまた坂本唯が担当します。天気は晴れです!】
全くもって、天気予報士でも何でもないタレントが一言を添えた。
「んー。雨か」
きっと雨が降ると謎の核心をした。
「ははっ」なんとなく面白く感じた。
これから始まる地獄みたいな出来事の事なんて何にも知らずに。
【聞いてくれた方々ありがとうございます。またお話しましょう】
そろそろ教室に向かう合図だ。
付けていたヘッドホンを首にかけ、散らばっているごみを拾って屋上を出る。
後ろの扉から入り、自身の席へ向かう。
いつもはこの時間には席にいる枝元さんはいなかった。
机の上にヘッドホンを置こうと首元で掴んだ。
「野々山‼」
担任の先生の声がした。いつもよりも大きい、一大事でもあったのだろうか。
声のする方へ顔を向ける。
先生は走ってきたのか、汗だくで少しイラつきも感じられる表情をしていた。
「ん?」
まったく状況が掴めない僕はただただ見つめ返した。
何かをやった、やり忘れた記憶もないし、もしかしたら僕の聞き間違えで僕ではないかもと思ったから。
「野々山‼ 何をしている早く来い‼」
またもや大きな声でハッキリと僕を呼んだ。そして、待ちきれない状態なのかこちらに向かってくる。
うちの担任は体育会系の四十代、五十代の男性で、普通に迫られるのは怖いと感じた。
それに、二年生が始まってから大きい声で名前を呼ばれるのも、イラついているのか焦っているのかはわからないが、そういう姿をみるのも初めてで、その勢いにやられて固まった。
僕が何をしたのかはわからないが、言われるままに教室から連れ出されて校長室に案内をされる。
授業が始まる数分前だと言うのに連れ出されるという事、何が起こるかはわからないものの嫌な予感がした。
「入れ」
扉を開けて中へ入る。
「ん?」
枝元さんがいた。
左のソファーに校長と学年主任の先生。
低めの長机を挟んで右に一人、泣いていたのか目元の赤い枝元さんがいた。
「座れ、野々山」
担任は枝元の隣の席へと手を伸ばす。
なにがなんだかわからずにソファーに腰がけ、目の前の学年主任と目が合う。
いつもよりも目が鋭く、貧乏ゆすりなのか右足が細かく揺れている。
隣に座る校長先生もいつもは優し気な雰囲気があるのにそれが感じられなかった。
担任含めて、待たされた人みたいに少し不機嫌に見える。
隣の枝元さんはただただ呆然と机を眺めている。
そんな不穏な空気の中、第一声を放ったのは主任だった。
「野々山くん。どうして呼び出されたのか理由はわかるかな?」
「呼び出された?」
正面に座る学年主任の鋭い眼差しを向けられて逸らす。
「そうだ」
状況は掴めないままに質問される。
「わかりません」
「ふー。そうかー」
何かを期待していたのか、少し落ち込んでいるように見える。
「それじゃあ、隣の枝元さんとはどういう関係だ?」
質問の意図が全く読めない。
「隣の席の人。ですかね?」
隣に座る枝元さんがこちらを向いて、正面、その隣、そして立っている担任も僕の答えに対して注目して、あからさまに落ち込んだ。
思っている事を素直に答えた僕からしたら、その反応に対して疑問を浮かべた。
「野々山、この状況で嘘はダメだぞ」
「え?」
立っている担任が上から物を言い、言っている意味が分からず声が漏れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます