第3話

四対の瞳に見つめられ、勇者はハッと我に帰った。彼らの目は勇者への期待が湛えられているのが、見てとれた。

「魔王!」

そう呼びかけると、魔王は目をすがめて勇者を見た。

「我は勇者、リヒト・ソレール」

胸に手を当て、リヒトは力強く名乗りをあげた。それに呼応する様に、魔王も口を開く。

「我は魔族の王、リュナ・ナイトメア」

眉一つ動かさず、リュナは淡々とした名乗りをあげた。


「多くの人々を弑虐し、残虐の限りを尽くす魔族の王!俺はこの不毛な争いに終止符を打つ!」

悪の根源である魔王に、告げるのは決意。魔族と人間、相容れない二つの種族を別つ出来事への決別の意思。


「無用な諍いを起こしているのはお前たちだ、人間。正義を振りかざし、さも自身が正しいと言わんばかりに魔族を虐殺する」

勇者の言葉を受けて、魔王が告げる。


人と魔族は相容れない。互いに殺し、殺され、復讐と悲しみが降り積もり、連鎖する。

長い間、あらそい続けた。

血で血を洗う日々。

どちらが正しいかなんて、時の彼方に消えた。

人と魔族、どちらかが滅ぶまで、止まらない。


二人の視線が交差する。互いの瞳の奥にある思いが互いに伝わった。

勇者と魔王。出会うべくして出会った二人。

思いは同じ。願いは同じ。

二人の思いは同じだった。

勇者も魔王も、この戦いに終止符を。

日々に安寧を。

人々に笑顔を。

「この戦いに決着を」

勇者は魔王を真っ直ぐ見据える。誠実な声が響いた。

「ああ」

勇者の思いに応える様に魔王はゆっくりと首を縦に振った。


「だから、私と…」

「だから、俺と…」

「「----」」

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