音を求めて
雪華(せつか)
第1話
2024年の5月、その世界は音を楽しむことを忘れていた。
だから、僕は音を求めた。
ちょうど1年前。ある女性が音楽を聴き、謎の病にかかった。
そのような状態になった人が各地で発見され、どれも共通点は「音楽を聴いた」のみ。
その病気は後に音楽病と名付られた。
そして、そんな病気を放っておくわけには勿論いかず、次第にこの世から音楽は排除されていった。
「音楽病は音が力を持ったんです!!」
まるでそう言い聞かせるみたいに、強く、画面の中の人は言った。
音楽病は詳細がまだよく分からずたくさんの考察がなされている。
音楽病の考察は、どれだけ編集が下手でも音楽病というワードだけで閲覧数が伸びるからということもあるのだろう。
「太田さーん」
「あっ、はい」
僕の名前は
音楽病についてはよくわかんないけど、僕はまた音が聴きたいし音楽がない世界なんて馬鹿げるにもほどがあるって思う。
元々ギターだってしてたし。音病が発覚するちょっと前に辞めたけど。
…現在僕の目の前には「タイムマシン」と呼ばれるものがあった。
何故タイムマシンに乗るかは簡単、音楽病がなかった時代で音楽を楽しむんだ。
尚、見張りはいる。どうやら機械に監視されるらしい。
大きく未来を変えることはダメなので、したら無理矢理未来に帰され元の世界線に戻されるとのこと。
僕の目の前にいたタイムマシンの機械が変形し、僕をかこむ。
「カコニ イキマスカ ? ミライニ…」
宙に出てきた過去に行くという選択肢を押す。
「ナンネンナンガツナンニチナンジニ イキマスカ ?」
「あっ、うーん……じゃ………1年前……いや、2年前にするか……今日でいいよな…時間は自由…」
宙に浮いた選択肢に何度も指をつける。
「デハ シュッパツ シマス」
「…うおっ!」
そして、がくがくと機械が動き出し―――。
自然に目が覚める。
上半身を起こしてみると、そこは自分の部屋だった。
「………カレンダー…いや、スマホか…」
小さな声で呟いたあと、自分の横に置いてあったスマホを起動する。
そこには5月14日と書いてある。
さっきまで昼だったのに今は朝だし、どうやら成功しているみたいだ。
一応何年か確認してみると2024年と書いてあった。
タイムリープ、したんだ………
ぎこちなく家族に挨拶をし、朝ごはん食べ、その後は部屋にこもりイヤホンを装着して動画サイトで音楽を聴いた。
『♪~♪♪~♪…』
うん、やっぱり音楽ってたまらない。
体の隅々まで大好きな音で行き渡るような、全身が音に飲み込まれるような。
とにかく今は音に夢中で、今が楽しい。嬉しい。
そのまま音楽を聴き続けていると、押し間違えて別の動画が流れてきてしまった。
あっ間違え…
『…♪~ 』
あっこの曲…懐かしいな…
しばらくイントロを聴いていると、声が耳に流れてきた。
「!」
この人、めちゃくちゃ歌上手い……。
かっこよさがあり、しかし綺麗さもあって女性らしい声。
高音が気持ちよくて美しい…。
そんな人が何故か黒猫のでかい被り物をしているが、それがどうでもよくなるほど僕はその人の歌声に聞きほれ、懐かしくて大好きな曲なだけにさらにテンションが上がっていった。
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