第101話「足取り掴む」
「それで、何かわかったか?」
「というと?」
「ここに来て、何かわかったのか?ゴレイムに関する手掛かりがつかめたか?」
「一応、推測は出来ますわね。足取りを」
ゴレイムが逃げ出したのは海のある方向だった。
だが、その後海中にいたのはマグロゴレイムであり、探しているゴレイムとは別の固体だった。
ここから推測できるのは何か。
ゴレイムは一度海中に逃げた。
「――しかし、すぐに海中を離れたのですわ」
『犬』やアインスのストーンゴレイムによる索敵で見つからなかったことからも明らかであろう。
「それは、どうして?」
「おそらくですが、マグロゴレイムに追い出されたのでしょうね」
海中にある塩を操作するマグロゴレイムに、海中で勝つのは難しい。
ヴェーセルとて、海の外に無理やり引きずり出したからこそ討伐できている。
アインスが、シャーレを守りながら撃退するのが精いっぱいだったという事実も踏まえると、おそらく陸戦に向いた手合いだったのだろうとも推測できる。
なおさらマグロゴレイムには勝てない。
「ゴレイムどうしで戦うことなんてあるんですか?」
シャーレにしてみれば、そう思えるだろう。
現在進行形でゴレイムと戦い続けているゴレイムが目の前にいるのだが、そんなことを知るすべもないのだから。
だが、ヴェーセルは知っている。
アインスのことだけではない。
ゴレイムは人を食らい、より強くなることを目的としている。
ゆえにロックゴレイム同士であれば競争相手であり、縄張り争いをする必要だってあるだろう。
「ともあれ、問題のゴレイムはそのまま町に向かい、何もしていなかったのですわ」
何か行動を起こせば、マグロゴレイムに睨まれるから。
事前に配下のストーンゴレイムを作り、配置はしていたがそれだけ。
何もせず、ひたすら時間が過ぎるのを待っていた。
そして、街に潜伏していた最中、マグロゴレイムが討伐されたという知らせを聞いた。
さらに、討伐を成し遂げた仮面騎兵が撤退することも発表されている。
だから、今になってストーンゴレイムを起動し、行動を起こしたのだろう。
「情報が集まるであろう街の中にいることが確定しました。さらに情報を簡単に取得できたことから地下に潜っているのではなく人に擬態しているのでしょう」
「だが、ガンドックのチェックをどうやって欺いたというのだ?」
「おそらく、死人に擬態したのです」
ガンドックの確認方法は、戸籍を元に生きている人間一人一人を呼び出して、検分するというもの。
生きている人間への成り代わりを防ぐことはできるが、欠点もある。
すでに戸籍から消えている人間に捜査の手は及ばず、ガンドックにも発見できなかった。
「つまり、そういうことか」
アインスは、それきり何も言わない。
その沈黙こそが、ヴェーセルとアインスが同じ答えを持っているという証左である。
ゴレイムは、騒動が起きた時点で既に死んでいたものに擬態している可能性が高い。
さらに、マグロゴレイムを恐れて、新しく人間を食うこともできない。
つまり。
「本当に、嫌な相手ですわね」
ロックゴレイムは、
戸籍を持たず、街の中に人として潜伏する。
夜だけは地下に潜ってしまえば、住所を持たないことも不審に思われない。
顔見知りにあった場合は問題だが、そうならないように顔を隠しているのかもしれない。
「でも、この仮説が当たっているなら簡単ですわ。顔を隠している不審者を探せばいいんですの」
「それって、ヴェーセルさんみたいな人のことですか?」
「…………」
「あー、そういえばずっと顔につけっぱなしでしたわね」
どうせなら変装するために使おうと、街の中にいた時からずっとヴェーセルは『仮面』で顔を隠していた。
「そう考えると、顔を隠している人って案外珍しくないのでは?」
「そんなわけないだろ」
「ええと、よくわからないですけど、私はそんな変な人見たことないですね」
「そ、そうですか。変ですか……」
約一名が傷ついた状態で、三人は帰路につくのだった。
「さて、改めて作戦会議をはじめましょうか」
宿の客間を一つだけ借りて、ヴェーセル達五人はそれぞれが持ち帰った情報を統合することになった。
「ワタクシたちはシャーレとともにロックゴレイムの足跡をたどり、おそらく街にいるであろうということが確認できましたわ」
「もう一つ、我の方からも言っておきたいことがある」
「?」
「やつの能力についてだ。二年も前のことだったが、ようやく思い出した。今ここで共有しておきたい」
「…………わかりました。お願いいたしますわ」
アインスは、促されるがままにロックゴレイムの能力を話してくれた。
「なるほど、思ったよりシンプルな能力ですのね」
「ああ、だがシンプルだからこそ厄介だ。我一人ではおそらく勝利するのは難しいだろうな」
「三人とも、見つけたら何よりも安全を優先してくださいね?決して戦おうなどと考えないように。あまりにも、リスクが大きすぎますわ」
以前倒した三体のロックゴレイムと同等かそれ以上に、純粋な戦闘に特化した能力。
逆に言えば、逃げ切るのはそこまで難しくはないはずだ。
「もちろんわかってますよ。我々の仕事は探索と情報収集ですものね?」
「ええ、本来ならそれさえも危険な仕事なのですが……致し方ありませんわね」
しかし、ヴェーセル達は気づいていなかった。
着々と準備を進めていたのはヴェーセル達だけではなかったことに。
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