第93話「どうしてブートキャンプ」

「……ということがあったのですわ」

「なるほど、ガンドック・ファイアフライがすべての元凶、と」

「あの、ルーナ、ちょっと落ち着いてくださいまし?」



 ガンドックを制圧してから三十分ほど経過したころ。

 ヴェーセルはルーナたちと合流していた。

 オデュッセイアのすぐ外だ。

 街の近くまで戻ってきていたヴェーセルを、外で様子を探っていたアルが発見できたという形である。

 ヴェーセルは、おおよその現状を三人に説明していた。

 ガンドックと『軍隊蟻』が勢力拡大のためにヴェーセルとアインスを襲撃したこと。

 とりあえず、その場から逃げたこと。

 ルーナたちと合流しようとオデュッセイアに戻ろうとしたが、そこでゴレイムを見つけて戦闘を開始したこと。

 消耗したところでガンドックと連戦になり、辛勝して逃げてきたこと。

 ちなみに、すでに変身は解除されている。

 持ち去ったはずの銃器もすでに消えている。



「言われてみれば、奴に殺意や悪意は一切なかった」

「そうですね、む、むしろ逃げ回ってばかりで追いつくのが大変でした」



 どうやら、三人ともアインスの行動に疑問を持っていたらしい。



「事前にガンドック・ファイアフライが言っていた情報とは――アインスが暴れたあげくヴェーセル様を制圧して誘拐、洗脳している――という話とはどうも印象が違うと思ったんですよ」

「よくまあ、そこまで嘘がつけたものですわね」


 戦力を削りたくないという思惑から生かしたが、もう殺しておいた方がいいのではないかという考えが浮かんだ。

 ……アインスはそれを望まないだろうが。



「それで、私の、魔術と、アルちゃんの能力を使って『軍隊蟻』達の様子を探ったら……」

「裏切ったのはガンドックたちの方、ということがわかったんですのね」

「そういうことだ」



「これからどうしようか、ヴェーセル」



 アルが背中をぽすんと、ヴェーセルの体に預けた。

 日頃の行いのせいか、三人は、特にアルは距離感が近い。

 ヴェーセルも背後から抱きしめつつ、答える。



「もちろん、元凶のゴレイムをどうにかしますわよ。ロックゴレイムを探し出して始末する」

「ああ、結局いつものようになるんですね」



 ジニーはため息をついた。

 鉱山都市崩壊事件などをはじめとして、ジニーにはかなり頑張ってもらっている。

 外に出ることを極端に嫌っており、図書館以外で外出しない彼女が、である。



「ごめんなさいね、苦労を掛けますわ」



 頭が下がる思いだった。

 実際に頭を下げている。



「い、いえ、とんでもないです。それに、ヴェーセル様にかけられる苦労は苦労ではないといいますか……」



 頭を下げるヴェーセルにたいしておろおろしながら、ジニーは二人の同僚を見る。



「そうだね、むしろもっと頼って欲しいことが多いかな。アインスの件についても私たちは蚊帳の外だった」

「ええ、危うくアインス・オーキドマンティスを手にかけるところでした」

「それは本当にごめんなさいね」



 ヴェーセルは、さらに深く頭を下げる。

 ふと、視界にルーナの顔が映る。

 どうやら、しゃがんでいるらしい。



「ヴェーセル様、どうか私達をもっと頼って、お任せください。私達はそのためにいるのですから」

「そうですわね、ありがとうございますわ」



 改めて、ヴェーセルは自分を支えてくれている人たちのありがたみを実感していた。



 ◇



「オデュッセイアは人口二千ほどの小規模な街です」


 ジニーが解説をはじめる。

 もっとも、黒板は流石にないので口頭のみでの説明になったが。


「家屋も合計千に満たないですね。使われていないものを除けばさらに減るでしょう」

「容疑者という意味では絞り込みやすさはありますわよね」


 ガンドックたちによる妨害を考慮しなければすぐに『仮面』で見つけられそうだ。



「それで、どうやって見つけようか。オデュッセイアはそう大きくないとはいえ、四人だけでくまなく探すのは難しいよ」

「ガンドックの手勢を避けながらと考えれば、大規模なチェックをするのも難しいですものね」

「ええ……」



 付け加えれば、街にいるのか、住民に擬態しているのかも不明だ。

 例えばマグロゴレイムのように街の外にいるかもしれないし、地下などに潜伏しているかもしれない。

 その場合、捜索範囲はさらに広がる。

 ただ……。



「ゴレイムは、街の中のどこかにいる。それは間違いないと思いますわ」

「どうして、そう思うのですか?」

「『犬』を使ったからですわ」



 戦闘能力もほとんどない、索敵能力に特化した形態。

 根を地上と地下に張り巡らせることでオデュッセイアとその周辺を探った。

 そんな原始的な索敵で意味があるのかと思ったが、地上から動けないゴレイムを探るならそれで十分なのかもしれない。

 閑話休題。



「オデュッセイア周辺の森林や海などには人間サイズの生物はいませんでしたわ。もちろん町の中にはたくさんいましたが」

「ああ、それならやっぱりロックゴレイムは街の中にいるんですね」



 ヴェーセルもまたアインスと同様に、敵はオデュッセイア内部に潜伏しており、それをガンドックたちは見過ごしていると考えていた。



「つまり、ワタクシたちのやることはガンドックたちを避けつつ、ロックゴレイムを捜索。ストーンゴレイムが居ればその都度破壊しますわ」

「なるほど」

「とりあえず、拠点が欲しいですわね。オデュッセイアの外に」

「それなら、私達にお任せください」



 ずん、とルーナは背負っていた巨大な荷物を地面に置く。



「ねえ、言うべきか言わざるべきか迷っていたのですけど、ルーナはそれ、重くないんですの?よく運べましたわね」



 熊ほどの大きさの荷物を見ながら、ヴェーセルは呆れる。


「全然重くないですよ?これくらいなら全然走って運べます」

「ええ……」



 流石の体力である。



「このあたりで野営の準備をしましょう。ジニー、アル、手を貸してください」

「りょ、了解です」

「当然、任せて」

「あ、ワタクシも手伝いますわ……」

「いえ、ヴェーセル様は周囲の警戒をお願いします。ゴレイムが出た場合、一番対応能力が高いのは貴方なので」

「わかりましたわ!」



 ヴェーセルは言われて見張りを開始。

 同時に、ルーナたちはてきぱきとテントの設営を始めた。

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