第89話「剣と銃」


 グレネードランチャーからグレネードを次々と放ってくる。

 ヴェーセルは、それを回避できない。

 もう、動く体力が残っていなかった。

 オリーブの実を大きくしたようなグレネードが飛来し。



「え?」

「む?」



 ヴェーセルの手前・・で爆発した。



「KAMEMEMEME」



 直後、その理由がわかる。

 ダメージを受けたせいか、あるいは意図的にそうしたのか、透明化を解除して姿を現した。

 ぎょろぎょろと左右で別の方向を向いた眼球、渦巻き型の尻尾、緑色の鱗があった。

 カメレオン型のゴレイムが、ヴェーセルの盾になった。



「ゴレイム……アインスか」



 ガンドックは、そしてヴェーセルもまた理解する。

 これは、アインスが作り出し、こちらに送り込んできたもの。

 だが、関係ない。

 ストーンゴレイム程度であれば、容易く殺すことが出来る。

 だが、カメレオンゴレイムの――ゴレイムを操作するアインスの狙いはそこにはない。

 カメレオンゴレイムは、根を張っているヴェーセルに体をこすりつけた。



「そういうこと、ですのね」



 ヴェーセルはようやく理解する。

 ゴレイムに直接触れると、『根』がゴレイムを侵食し始めた。

 そして、侵食した土からはエネルギーを吸い取ることが出来る。

 魂のエネルギーが、ヴェーセルに直接流れ込む。

 ゴレイムの体がぼろぼろと、コアだけを残して崩れていく。

 アインスの狙いは、ゴレイムでヴェーセルを守ることではなく、回復させることだったのだ。



「これで、少しは回復できましたわね」



 ゆっくりと、ヴェーセルは立ち上がる。

 頭についていた『仮面』を引きはがし、出現させたベルトに取り付ける。



「アインス、ありがとうございますわ」



 ヴェーセルは、左手の爪を立てて、手の甲をガンドックに向ける。

 それから、左手で右肩を払う。

 敵に爪を剥くがごとく、そして邪魔者をはねのけるように。



「アナタは、どうして戦うんですの?」

「そりゃあ仕事だからで」

「仕事?人をこうして襲うことがですの?それが本当に仮面騎兵としての仕事なわけないでしょうが」



 ヴェーセルはバッサリと切り捨てる。



「建前を聞いているのではなくってよ。どうして仕事をしたいと思っているのか、アナタの本音を聞いておきたいんですの」

「なるほどねえ」



 ガンドックは、グレネードランチャーを向けながらポリポリと左手で頬を書く。

 彼は、銃口をぴたりとも動かさずに、答える。

 きっと、何も考えていないわけではない。

 むしろ、どうにかして相手の隙を突いてやろうと思っているはずだ。

 だからこそ、本音が聴ける。



「ワタクシは、人を守ることで、大切な人に誇れる自分であるためですわ」

「…………前も聞いたよ」

「あらそうでしたか。それで、アナタはなんのために戦うんですの?」

「俺は」



 ガンドックは、そこで一度言葉を区切る。

 ため込んでいた澱を、掻きだすように。



「俺は、英雄えいゆうになりたいからだ」



 英雄とは、歴史における勝者であり、後世に語り継がれる偉人のことである。

 だから、ゴレイムの討伐ではなく人間同士での勢力争いに注力するのだと彼は言う。



「どうして、英雄になりたいんですの?」



 ヴェーセルは、問いを重ねた。

 それは、彼女にとってはルーティーンのようなものだ。

 相手が誰であれ何であれ、言葉が通じる相手であればヴェーセルは会話し、問いかける。

 ゴレイムであろうと、自分を殺そうとした軍人であろうと。

 どうしてそれをするのかと言えば、ヴェーセルにとって戦うという行為はまさに自己満足だからだ。

 自分がしたいことを、したいようにしているだけ。

 だからこそ、相手が何を思っているのかもまた知りたいと思う。

 ガンドックは、答えた。



「もしも、英雄になったら……みんなが俺のことを愛してくれるかもしれないから」

「……ああ、アナタ、ワタクシに近い人なんですね」



 ヴェーセルがルーナたちからの愛を受けて人生を謳歌しているのと同じように。

 彼もまた、承認と愛を求めている。



「アナタは、愛を求めているから戦う。ワタクシは、人を愛しているから戦うのですわ、守るために」

「そうだな」



 ガンドックもまた、武器を構える。

 遊びは終わりだと言わんばかりに。



「「変身」」

『Change――bind weed』

『Change――olive』



 紫の光に包まれ、反撃の翼が展開する。

 どろりとした黄金の液体が崩れ、漆黒の戦士が爆誕する。



『High jack』



ヴェーセルは、ジェットパックを吹かして、ガンドックに正面から突っ込んだ。

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