第28話「奪われる眼球、失われる輝き」
戦闘終了後、現場をひとまず騎士団に任せ、ヴェーセル達は学園の中庭で、お茶を飲みながら報告書を書いていた。
どのようにしてゴレイムを発見し、どのような戦闘を行ったのか。
また、周辺に不審な人物を見かけなかったか。
先ほどゴミ捨て場の前で絡んできた二人組を、念のため不審人物として記し、ヴェーセルはペンを置いた。
「気分はどうですの?」
ルーナが淹れてくれた紅茶を飲みながら、対面に座るローグに語りかける。
ちなみに、どこにルーナがポットやカップを隠し持っていたのかは知らない。
きっと、ヴェーセルにはわからない、メイド特有の技術があるのだろう。
紅茶を一息で飲み干してから、ローグは口を開いた。
「最悪の気分だよ。折角うまい紅茶を飲んでいるというのに、フッ、淹れてくれた人に申し訳ないような気持ちすらあるね」
「まあ、アナタの倫理観ならそうなるでしょうね」
「迷いとかがない君が羨ましくなるね」
「……勘違いしているようですが、ワタクシとて傷つくことはあってよ?」
「そうなのか?血も涙もない合理主義者だとばかり」
「合理的、と言われれば否定しませんが、人が死ぬこと自体は良く思っていませんわ」
鶏ゴレイムによって、かなりの犠牲者が出た。
ヴェーセルが駆けつけた時にはすでに、二人の護衛は全滅していた。
フィリップとアメリアを救い出すことはできたが、それでも守れなかった命のほうが多い。
「この報告書を見てくださいまし」
「……これは」
先日、ローグの部屋を訪問した時に見せたものと全く同じだった。
あの時は、彼が精神的に不安定になっており、内容を見るどころではなかった。
だが、今は見ることができている。
「間に合わなかった事件の、報告書か」
「ええ」
ゴレイムは、人を殺して捕食する怪物。
王都でのゴレイム騒動は、ほとんどローグとヴェーセルが対処できている。
だが、そうでない場合もある。
発覚した時点で犠牲者が出ている王城の件のようなパターンだったり。
「フロゴール男爵邸の貴族と使用人が全滅だと?」
この報告書のように発覚した時点で、全滅しているパターンであったり。
「確か、フロゴール男爵家は学園近くに居を構えていて、宝石商で財を成していたんだっけ?どうしてゴレイムの仕業と断定できるんだろう?強盗の可能性もあるんじゃない?」
「資料をよく読めばわかりますわよ」
フロゴール男爵邸の惨状は、男爵邸の外に住んでいた使用人が尋ねてはじめて発覚したらしい。
男爵らをはじめとした犠牲者の死体や血痕こそ残っていたが、ゴレイムに殺されたとまでは断言できない。
「それも、全員が眼球を抜き取られて亡くなっています。また、一人の例外なく、首を鳥のような何かに食いちぎられたような跡があるようですわ」
「それ、首から下は」
「見つかっておりませんわ。つまり、そういうことでしょうね」
「醜悪だな」
見つかっていない部分は、すべてゴレイムの腹の中というわけだ。
付け加えれば、発見された時点で屋敷の内部はありとあらゆる部屋が荒らされ放題だったそうだ。
ゴレイムは、人の命も、尊厳も蹂躙し、誰にも気づかれることなく逃げおおせたのである。
あまりにも後味の悪い話に、二人の顔色が暗く沈む。
少しだけ無言の時間が続いたのち、ローグが口を開いた。
「これ、多分ロックゴレイム自身が出向いているね」
「その根拠は?」
「知性が高すぎる。あくまでも駒、雑兵として作られているサンドゴレイムには発覚しないように注意を払いながら、男爵邸の住人全員を鏖殺するなんてできない芸当なのさ。ストーンゴレイムはそもそも大きすぎるから、なおさら隠密行動なんてできないよ」
「ついに、見えてきましたわね」
ここ一週間で、ヴェーセルたちはすべてにおいて後手に回ってきた。
倒してきたのも、ストーンゴレイムやサンドゴレイムといった、いわば黒幕であるロックゴレイムにとってはいくらでも量産できる、替えの効く捨て駒に過ぎない。
「だからこそ、ワタクシたちは対処しなくてはなりませんわ。もう一つ、有力な手掛かりも得られましたしね」
「というと?」
「王立学園は、二十四時間騎士団によって警備がなされております。ゆえに、不審人物だろうが、人に擬態したゴレイムだろうが、付け入る隙などございません。一つの例外を除いては」
「ゴレイムが、学園関係者に化けていた場合、か」
「そういうことですわ」
これまでは、どうしようもなかった。
貴族街に限っても、使用人なども合わせればその人口は数万に達する。
だが、この王立学園に通うのはたかだか数千。
ましてや、今日この高等部にいた人間であれば、その数は数百程度に収まる。
一人一人のアリバイを洗っていけば、確実にロックゴレイムが擬態した人間を把握できる。
あとは、ロックゴレイムに対して、ヴェーセルとローグで総攻撃を仕掛けるだけ。
「やるべきことが、決まりましたわね」
「ああ、行幸だ」
「王都でゴレイムが出現するようになってから、一週間。何人も命が失われ、王都中の人々が恐怖と混乱の最中に突き落とされていますわ」
「フッ、本当に最悪だな」
「ええ、だからもう終わらせてしまいましょう。ワタクシと、アナタでこの悲劇の幕を下ろしましょう」
ローグとヴェーセルは、固く握手をした。
もはやお互いに迷いはなかった。
どうしても打ち砕かねばならない存在がいるのだから。
守りたいと思っているのは、同じなのだから。
◇◇◇
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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