第17話「二号、変身!」

「こんなものがあるとはね」



 アルに呼ばれてきたらしいローグが、巨大な卵を見上げて、嘆息する。

 ヴェーセルよりも早くに仮面騎兵となり数多のゴレイムを討伐した彼にとっても、この光景は理解しがたいものではあるらしい。



「あんまりいないものですの?卵を設置して時間差で動き出すゴレイムって」

「卵を生み出すゴレイムというのはめずらしい。いないわけではないがね。伝聞で聞いたことはある」



 ゴレイムが生物を模倣している以上、ありえない話ではないのだろう。



「だが、時間差で動き出すゴレイムなど見たことがない。道理で捕まらないわけだ。アリバイという観点は無意味だな」

「とはいえ、自然に学校に立ち入れる人間となると限られますわよ。つまるところ、時間じゃなくて場所を使って絞れば誰にゴレイムが化けているのか特定できるということですわ」

「なるほど、いつかわからなくてもどこにいたのかはわかっているからな。フッ、骨が折れそうだがな」



 王城、学校などに訪れたものとなれば限られる。



「ともかく、討伐をしてしまいましょうか」



 今後についての方針がまとまったところで、二人は卵に向き合う。

 ぴしり、と。

 音が鳴った。

 ぴしぴしと罅が拡大して、卵の崩壊が加速する。

 つまり、ゴレイムが動き出す。



「来ますわよ」

「フッ、前衛を任せる」



 ヴェーセルは一歩前に出ると同時、ローグは後ろに下がって銀髪についた仮面を取り外し、茨のようなベルトに装着する。

 その瞬間、ゴレイムが目覚めた。



「ペルルルルルッルルル」



 銀色の鳥だった。

 全身が、鈍い銀色の土で構成されており、巨大な嘴が全身の半分を占めている。

 色と形状も相まって、嘴はまるで金庫のようだった。



「これは、ペリカンかしらね?」

「フッ、あの嘴は間違いなくペリカンのそれだ」

「実物見たことないんですわよね、図鑑とかで見たくらいですわ」

「フッ、確かに、見る機会はあまりないかもね。実物の方が可愛げあるのは間違いないだろうが」



 ペリカンゴレイムは翼をほとんど動かさず、足で動いている。

 鳥型であるにもかかわらず、飛行能力はないらしい。

 鶏、ペンギンと飛べなくても問題のないトリばかりだったので飛べなくてもなんとも思わなかったが、ジャンプすらしているところ見ていない。

 土から作られた存在ゆえに、地上からは離れられないのかもしれない。



「せいやーっ」



 両足を蹴り砕き、動きを止める。



「せい、せい、せい、せい!」



 続いて、胴体を割り、攻撃に使えるであろう翼をへし折っていく。

 だが、それでもなおペリカンゴレイムは止まらない。

 コアを壊さなくては、死なない。



「なるほど、コアは頭部にあるようですわね」



 ヴェーセルは『兎』のブーツで強化された蹴りを放つが、ダメージを与えられない。



「こいつ、硬い!」



 ペンギンゴレイムのような特殊能力で防御するのとは違う、純粋に嘴と強度と硬度だけで、こちらの攻撃を防いでいる。

 運搬を得意としているだけあって、頭部の強度はトップクラスだ。



「フッ、ヒールは近接戦闘に秀でている分、火力はややローゼイドに劣る。開示されたカタログスペック通りだな」

「いや、くっちゃべってないで手を動かしてくださいまし!」

「失敬、今【エレメンタル・サ―チ】という魔法を使っていたのでね。弱点を分析する必要があったんだ」



「他者の魔法適性や、物体の弱点属性を分析する」という魔法を使っていたローグが、顔を上げる。

 そして、彼は仮面を取り出した。

 ヒールと似ていた、しかして異なる『仮面』。

 バラのような棘のついた蔓のような装飾が施された、赤色の仮面。

 腰に出現したベルトのバックルに、仮面を装着する。



「変身」

『Change――rose――crimson』



 瞬間、ローグの全身が赤く光る。

 そして、光が収まるとバラを象った異形がいた。

 頭部は、満開のバラの中に二つの複眼が存在している。

 そして、全身に棘のついた蔓が白を基調としたスーツにまとわりついている。

 さらに、手には赤いバラをモチーフにしたようなが握られている。



「発射」



 槍の穂先から、炎弾が射出され、ペリカンゴレイムに命中する。



「ぎゃああああああああああああああああああああ!」



 口を開けないまま、ペリカンは悲鳴を上げる。



「やはり、炎熱攻撃が弱点のようだね」



 ローゼイドは、魔力を活かした属性攻撃が特性である。

 魔法というのは、魔力をエネルギーなどに変換する。

 それは雷撃であったり、水の壁であったり、炎だったりする。

 だが、魔法には欠点がある。

 魔力を使い切ってしまうと、もう魔法が使えなくなること。

 だがしかし、ローゼイドとして魔法攻撃する際には彼の魔力は一切消費されない。

 仮面騎兵としての力は、すべて『仮面』内部のエネルギーを消費してまかなわれている。



「ゆえに、無尽蔵に魔法を打つことができる。それが、ローゼイドの強みだよ」

「その割に、突破しきれてないようですけれど?」



 ヴェーセルは責めるように、ローゼイドに声をかける。


「いや、全力を出すと校舎の設備に引火しそうでね。じわじわ削ったほうが安全だよ」

「なら、ワタクシも助太刀しましょう」



 ヴェーセルは『仮面』に触れた。


◇◇◇


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