第13話「上級ゴレイム」
「改めて、訊きたいのはゲームの世界観についてよ」
「そうだねえ、色々盤面が動いたし、改めて説明をしておこう」
「まず、我々共通の目的はこの世界で幸せに生き延びること」
「そうですわね」
もちろん、各々やりたいことはある。
ヴェーセルはメイドに囲まれて生きていきたいという願望がある。
そして元々女性だったローグにも、イケメンな執事に囲われて生きていくという欲があるわけだが、それはさておく。
「まず、「ドラゴンライド・アルブヘイム」は主人公であるアメリアが様々なキャラクターを攻略するというゲームよ」
「素が出ていますわよ」
ヴェーセルは、元々女性であったころの口調が出ているとローグに指摘した。
前世と今世で性別が違う。
仮面騎兵であることだけではなく、そういう意味でも二人は似通っていた。
指摘されたローグは、気まずそうな顔をして。
「こほん、ともかくとしてアメリアは私を含めた男性キャラクターを攻略することができるわけだが、バトル要素がある。これは以前に君には説明したっけな」
「魔法がある世界ですものね」
ヴェーセルはほとんど使えないが、魔法という技術がこの世界には存在する。
「そこで、禁じられた呪いの武器というものを見つけるんですよ」
「では、それが」
「それが、仮面騎兵ですわ、ルーナ」
「現状訊きたいのは、ゲームの話ではなくて、王都に襲来したゴレイムのことなのだけれど」
ヴェーセルは、ある程度ローグの知識も信用していたが、全く今いる世界と同じだとは考えていなかった。
そもそも、キャラクターに日本人の人格が憑依している時点で違うのだろうから。
「フッ、理解してもらうためにはまず、ゴレイムについて説明しなくてはならないが」
「一応、ゴレイムは出てくる。ただし、あくまで雑魚敵としてだ」
「それは、なんというか随分とゲームとこの世界では差があるんですのね」
ゴレイムは決して弱くない。
そもそも、とヴェーセルはアメリアの様子を思い出す。
到底、彼女が仮面騎兵でしか倒せないゴレイムを倒せる力を持っているとは思えなかった。
そんな力があるなら、あの場で使わない理由がない。
「ああ、ただゲームとこの世界で共通点もあるんだ。例えば、ゴレイムには階級があることはご存知かな?」
「階級?」
そんなのあっただろうか、とちらりとルーナを見ると特に驚いた様子もなかった。
どうやら、覚えていないのは自分だけらしい、と悟ったヴェーセルは冷や汗を流す。
「種類といった方がわかりやすいかな?まず、サンドゴレイム。最も弱いゴレイムだな。コアすら持たず、仮面騎兵であれば一発殴るだけで倒すことができる。ストーンゴレイムから生まれる。そしてストーンゴレイムこそが一般的にゴレイムと呼ばれるものたちだ。君達が先日倒した鶏型のゴレイムもその中に含まれる」
「そ、それは知っておりますわよ」
「うん、そうだろうね。じゃあ次はストーンゴレイムの生みの親についての話をしよう」
「?」
ストーンゴレイムがどこから生まれるのかは、知らない。
ヴェーセルにすら有力な情報は行き渡っていないのだから。
ジニーもそこまでは知らないといっていた。
「ストーンゴレイムを生み出しているのはロックゴレイムという奴らだ。別名、上級ゴレイムともいう」
「そのロックゴレイムの能力、特徴は?」
ストーンゴレイムを生み出すだけなのかそれ以外にも何かがあるのか。
「いい質問だね。まず、奴らは人間に擬態する。それも普通の人間には見分けがつかない程だ」
「ほう」
「擬態するには、その人間を捕食する必要があるらしい。フッ、醜悪なありさまだな」
人を殺して、成り代わる。確かに、醜悪という表現がしっくりくるだろう。
「ただ、無制限というわけではない。王室の資料によれば、人に擬態するのは一度限り、たった一人にしか擬態できないそうだ」
「そうですの……」
人に入れ替わるというのも、ノーリスクとはいかないようだ。
捕食がトリガーになるなら、複数人に変身しようとすると、混ざってしまったりするのかもしれない。
とはいえ、一人にしか変身できないのであれば、こちらにとっては楽なのも確かだ。
「さて、ここまで言えば私の言いたいことがわかってもらえるだろうか」
「ええ、なるほどですわね」
ようやく、事態が理解できたとヴェーセルはうなずく。
「あの、ヴェーセル様、一体何がなるほどなのですか?」
「色々謎だったのですが、それがほとんど解決致しましたわ。なぜ急にゴレイムが王都でも出没するようになったのか、なぜ連続的にゴレイムが現れたのか、どうしてゴレイムが貴族街にしかいないのか」
「何より、どうすれば王都でのゴレイム出現問題を解決できるのか、もだね」
「ええ、確かにこの問題が解決すればソイツを打破すれば済みますものね」
一人だけ、この状況を理解できていないルーナがヴェーセルの方を向いて尋ねる。
「あのヴェーセルさま、一体どういうことですか?」
「今までワタクシたちが見てきた全てのゴレイムを生み出す、ロックゴレイムが王都の貴族街にいるということですわ」
「かつそいつはこの貴族街で暮らす誰かに化けているってことだよ、お嬢さん」
「そ、そんな!」
ルーナが顔を青くする。
無理もない。
すれ違った誰かが、隣にいる人が、得体の知れない化け物に成り代わられている可能性があるのだ。怖くて当然である。
ヴェーセルは徐に立ち上がり、不安そうなルーナを抱きしめる。
「大丈夫ですわよ、相手がどこにいようとこの私がぶち殺して差し上げますから」
「あ、ありがとうございますヴェーセル様」
ぬくもりを感じながら、しっかりと安心してもらうために抱きしめる。
抱きしめた状態から腕をじわりじわりとスライドさせていく。
「あ、あのヴェーセル様。お、お尻と胸を触る必要は、あの、ローグ様が見ていらっしゃるので」
「いいではありませんか」
「う、嬉しいですけど、んっ、あの、そこダメ、んっ、だめですってばあっ!」
スキンシップ、もといセクハラはこほん、というローグの咳払いによって中断されるまで続いた。
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