第8話「イクシードと捕食者と使命」

「まず、仮面騎兵には各種形態があり、それぞれに固有の能力がありますね」

「それはまあ、わかりますわ」



 基本形態に加え、先日の戦闘で使用した『兎』と、ストーンゴレイム討伐で解放された形態。

 『兎』に関しては、基本形態に比べて、脚力と機動力が増加している。



「そして、それらの形態が解放されるのには、先ほども言った通り条件があります。例えば、脚力と速度に秀でた『兎』は『サンドゴレイムを一体討伐すること』で解放されます」

「ああ、そういう条件でしたのね」



 条件の詳細をヴェーセルは知らなかった。

 ジニーは恐らく、古文書などの記録から知識を得て話しているのだろう。



「他にも、斬撃と機動力に秀でた『馬』はストーンゴレイムを討伐することによって解放されます」

「ああ、多分それ先日解放されてましたわね」



 鶏ゴレイムを討伐した際に、別の形態が追加で解放されていた。

 あれが『馬』だったのか、と納得する。

 仮面のヒーローがいくつもの武装や能力を状況に応じ分ける展開は王道である。

 次戦う機会があったら、積極的に使っていきたい、とヴェーセルは思った。



「他についても、各形態ごとにスキルが存在しているのですよ」

「そうですわね」

「スキルにも、二種類に分類できます。ノーマルスキルとイクシードスキルですね」

「ほうほう」

「イクシードスキルというのは日に一度しか使えない、強力な切り札ですね。そしてイクシードスキル以外のものはすべてノーマルスキルと分類されます」

「なるほど」



 イクシードスキルというのは、『Exseed charge』のことだろう。

 確かに、『兎』で放った『Moonsault heel』の威力は他の攻撃とは比べ物にならなかった。

 他の攻撃では表面を削るにとどまっていた鶏ゴレイムを、一撃で粉砕するほどの威力。



「そもそも、ゴレイムっていうのもなんでしたっけ」

「ええと、ヴェーセル様、ゴレイムについては王立学校で習いませんでしたか?」

「習ったはずなのですけれど、忘れてしまっていましたわ。ゴレイム学は単位になりませんので」

「うう……。まあ、以前お教えしたのですが、解説しましょう」



 ジニーは、すちゃっと眼鏡をずり上げて説明を始める。



「まず、ゴレイムというのはあちらこちらに出没する、土から生まれた魔物ですね」

「そこまでは、知っていますわ」

「じゃあ、コアと外殻については知ってますか?」

「何でしたっけ?」

「ええと、ゴレイムの外殻は土で構成されています。これを壊しても、致命打にはなりません。ある程度の時間があればすぐにそこらの土を集めて修復します」

「ほうほう」



 短期決戦だったのであまり意識していなかったが、土でできている体ならば周囲の土を集めて修復するというのは理解できた。



「ゴレイムを殺す方法はただ一つ、体内にあるコアを壊すことです。そうすればゴレイムは死に、土に還ります」

「そうでしたのね」



 言われてみれば、かかと落としを打ち込んだ時、何かしら硬いものにぶつかったような感覚があった。

 あれがコアだったのだろうな、とヴェーセルは考える。



「コアって何でできているのかしら?」

「それは、まだ判明していません。宝石上の物体としか。何しろ、調査どころではない討伐対象ですので……。ちなみにこのやり取りは二回目です」

「そ、そうでして?」



 ジニーがそんな風に言うということは、本当にヴェーセルは過去に説明されたことがあるのだろう。



「ゴレイムがどのように生まれてくるのかは、謎とされています。少なくとも、明確な結論はいまだに出ていません」

「本当にわからないの?」

「一応、仮説と言えるものはありますが、検証できないので」

「ああ、まあそうですわよね」



 相手は、人を殺そうとする、人を殺す化け物だ。

 確認を取っている余裕などないのだろう。



「何よりも、重要なことがあります」

「ああ、捕食、ですわね」

「はい。ゴレイムが人類の敵である唯一にして最大の理由になります」



 それだけは、ヴェーセルですらも覚えている。

 さらに言えば、彼女はわかっていた。

 いるはずのフィリップ達の護衛がどこにも見当たらなかったことを。

 周囲に、彼らがいたことを示す血だけが見えたことを。

 ヴェーセルは確かに人を守れたが、同時に多くを救えなかったのだ。



「ゴレイムは、人を殺して捕食する。どんなゴレイムであろうとも、例外はありません」

「ええ、だからワタクシたち仮面騎兵は、ゴレイムを討伐しなくてはいけませんのね」



 ヴェーセルは改めて、仮面騎兵の存在意義を言葉にする。

 ゴレイムを殺して人々を守る。

 それが今の自分のあるべき姿なのだと、心に刻み付ける。

 守れなかった失敗を、もう二度と繰り返さないために。



「あの、ヴェーセル様。ちょ、ちょっとお願いがあるのですが」

「何かしら?」



 ジニーは、胸の前で指をこすり合わせながら、ヴェーセルに問いかけてきた。



「実は、この後用事がありまして、着いていっていただいてもよろしいでしょうか?」

「構いませんわよ。ちょうど話も一段落したところですし、今日は学校に行く予定もありませんので」



 ヴェーセルは快諾した。

 普段から自分を支えてくれるメイドの頼みだ。

 迷う余地など、一切なかった。

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