老いは愛に勝つ?

すでおに

老いは愛に勝つ?

 平成の音楽史に刻まれるヒット曲となった『愛は勝つ』。ラブソングの枠に収まらず、応援歌としても定番となって令和の現在も歌い継がれています。


 この世に星の数ほど歌が存在し、その大半がつまるところ「愛」がテーマなわけですが、「愛は」に続くフレーズとして、「勝つ」はひとつの正解と言って差し支えないのではないでしょうか。

「愛」と「勝利」。一見相容れない概念にかかわらず、『愛は勝つ』は、その二つが見事に調和しています。『勝利』を掲げたことで力強さを備え、応援の色も帯びました。

 シンプルでいて斬新。『愛は』に続く歌詞で『勝つ』を超えるのは難しく、実際この曲のヒット以降で思い当たるものはありません。これから先も歌い継がれることでしょう。


『春はあけぼの 愛は勝つ 隣は何をする人ぞ』


 誰にでも特別な時に聴く、思い入れのある一曲があるものです。普段は箱にしまってあって、落ち込んだり、傷ついたり、泣きたい時に蓋を開ける。音楽は傷んだ心を癒してくれます。失恋を支えてくれた曲にはひと際愛着がわきますから、思春期に出会った曲を今も大切にしている人は多いでしょう。


 これまでたくさんの愛が歌われてきました。この不確かな世界でたった一つ確かなもの。絶対であり永遠。それが愛であると。手を替え品を替え、様々な愛がメロディーを奏でました。

 私も若かりし頃は大いに共感したものです。


 ですが、人生には年を重ねてはじめて見える景色があります。若い頃には見えない、どんなに理屈で説明されても経験しないと納得できないことがあるものです。


「紫外線対策すべし」という大人のアドバイスが鬱陶しかったけれど、後になって聞いておけばよかったと悔やんでいる人がいます。近頃ベテランの域に差し掛かったかつての人気女優が加齢と向き合う覚悟を語るのを見かけますが、そこに行き着くまで葛藤があったことでしょう。若き日の眩いほどの美しさが衰え、鏡を見てはため息を吐く日々。昔の自分に伝言できるなら生活を正すよう忠告するのではないでしょうか。


「大人になるとは何か?」


 その一つは「人は年をとると知ること」と言えます。形あるものはいつか壊れるのは世の常でも、人間は死を待つまでもなく老いに直面します。


 年を取ればシワが増え、シミができ、白髪が生え、ハゲたりします。死亡率100%の人間は、加齢率もまた100%です。


 目の前にいる相手に永遠とわの愛を誓えても、これから先は互いに老いる一方。人間は永遠ではありません。現実世界では叶わないからこそ、フィクションの世界の住人は永遠の若さを求めるのでしょう。


 誰にでも一度くらいは恋に焦がれた経験があって、この先こんなに人を好きになることはない、とか、生涯この人を想い続ける、とか一心に想いを捧げ、破れてしまえば、この世の終わりぐらいに絶望する。今現在そういった心境の人もいるかもしれません。


 ですが、人間は一人残らず年をとります。恋に破れた相手と10年、20年後に再会して、今より魅力的になっていることは、あっても稀。がっかりまでいかなかったとしても、おや?とか、アレ?と思うケースほとんどで、加齢によって姿かたちが衰える。それが人間なのです。


『老いが勝つ』


 それを知ってしまった今、私には永遠に愛する自信も愛される自信もありません。まだケツが青く、本当の愛を知らないだけでしょうか。

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