第30話 死をもって償え ※ギオマスラヴ王子視点

「それで話とは、一体何だ?」


 不機嫌そうな表情で座る父上を目の前にして、俺は緊張していた。ギロリと睨まれながら問われて、少し怖くもある。こんなに父上の機嫌が悪いのは仕事が忙しくて、疲れているからなのか。


 腹いせに怒られたりするかもしれないから、さっさと話を終わらせてしまおうかと思い、俺は口を開いた。


「リザベットとの婚約を破棄しました」

「お前はまた、勝手にそんな事を……」


 険しい顔つきで父上が言う。しかし、俺の気持ちも分かって欲しいものだ。彼女のした行為も許せない。


「彼女は不義を働いたので、婚約を破棄して処刑するように命じました」

「……話は、それだけか?」

「いえ。まだ、報告しておくことがあります」


 王家とイステリッジ公爵家との関係を修復するために、もう一度エルミリアと婚約しようと手紙を送ったことを伝えた。すると、父上はため息をつく。それから、怒り出した。


「どうしてそう、面倒なことばかり起こすのだ!」

「ですが、父上! イステリッジ公爵家との関係修復は、重要な事でしょう?」


 それから俺は、帝国へ行ってしまったイステリッジ公爵家が王国に戻ってくるべき理由を説明した。父上も、公爵家の力を認めていた。再び王国に戻ってきてくれたら嬉しいはず。


 そのためにも、エルミリアとの関係を元通りにしなければいけない。婚約者だった頃に戻れば、きっと父上の疲れも癒えるはず。イステリッジ公爵家と王家の関係も。困難な状況になっている王国の現状も、全て元通りになるはず。


 そのために大事なのが、俺とエルミリアの結婚。この前まで、そうなるはずだった予定を元通りにする。


 だけど、エルミリアから返事がない。送った手紙が届いていないのかもしれない。だから今こそ、王家の力が必要だった。


「今現在、帝国に居ると思われるエルミリアのもとに手紙を届けるために、王である父上にも協力してほしいのです!」


 俺が必死になって頼むと、父上は呆れたように頭を振った。まだ、理解してもらえないのか。もっと説明が必要なのか。理解してもらうまでは、何度でも諦めずに話を続けようと思った。それなのに。


「お前には、本当に期待していた。だが、その様子では無理そうだ。私の判断が全て間違っていた。それを認めないといけない。私自身も愚かだったことを」

「え?」


 いきなり父上は、そんな事を言いだした。何を言っているんだ。今は、エルミリアに手紙を届ける方法を、一緒に考えてくれないといけないのに。


「きっと、変わってくれるだろうと思っていた。愚かな過ちをした後には後悔して、必ず良くなるだろうと。だが、お前は変わらなかった」


 だから、父上は何を言って。


「王国に混乱を招いた罪で、死刑を命ずる! 死をもって償うのだ」

「待ってください、父上! どういうことですか!?」


 意味が分からない。俺は父上に詰め寄ろうとしたけど、すぐ騎士たちに阻まれた。


「陛下の命令だ。大人しくしろ」

「は、離せッ! 私は、王国の未来のために頑張ってきたのにッ!」


 どうしてこんな事になるんだ。これから、ようやく皆が幸せになれる国になるはずだったのに。


「王子である私が居なくなれば、王国の未来は大変なことに!」

「お前が居るほうが、王国は大変なことになる。もっと早く、決断するべきだった」


 そう言い残して、父上は去って行った。一度も振り返らずに。本気で俺を処刑するというのか。


「ま、待って! 父上ェ!!」


 俺の叫び声は、もう届かない。このままだと本当に処刑されてしまう。死ぬなんて絶対に嫌だ。 誰か助けて! 誰でも良いから! お願いだ、エルミリア!


 どうして、こんな事に。

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