第19話 交渉の余地 ※ギオマスラヴ王子視点

 イステリッジ公爵家との関係について、どうにか改善することは出来ないか悩む日々が続いた。


「ねぇ、ギオマスラヴ様。私、新しい宝石が欲しいなぁ」

「うーん」


 愛するリザベットとデートする時間も、本当なら楽しいはずなのに。悩みのせいで心から楽しむ事が出来なかった。


「どうしたのですか、ギオマスラヴ様?」

「いや……」


 心配してくれる彼女に、なんとか笑顔で応える。だけど、隠し事は上手くいかないもので。


「私、心配です! だって、ずっと元気が無いんですもの」

「そうかな?」

「そうですよ」


 リザベットにはバレバレのようだ。でも、こんなに優しい彼女を困らせるわけにもいかないし。だけど、彼女にも将来的には関係ある事だから。俺は、意を決して口を開く事にした。


「実は、王家の財政状況が芳しくないんだよ」

「ええっ!? お金がないんですかぁ!?」


 彼女は驚くだろうと思っていたけど、予想以上の反応だった。彼女は目を見開いて固まっている。そんなリザベットの手を握ると、ハッとしたようにこちらを見た。


「ごめんね、驚かせて。だけど、これは事実なんだ」

「……そっかぁ。でも、おかしくないですか? 王家なのに、貧乏だなんて。変だと思います」

「いや、実はイステリッジ公爵家と揉めているらしくて、色々と大変なんだよ」

「まぁ!? そうなのですか」


 ここまでの内情を話すべきじゃないかもしれないが、思わず話してしまった。話を聞いたリザベットが考え込む。


「イステリッジ公爵家って、私をイジメた女が居る家よね。それなのに、許せない! 私だけじゃなく、王子であるギオマスラヴ様までイジメるなんて!」


 そう言って、俺のために怒ってくれるリザベット。そういえば、そうだった。でも彼女は学園に通ってないから、イジメていないと主張していたが。


「イジメられていたのは、本当なのか?」

「本当ですよ! 証拠だって、あります」


 そういえば、証拠があったんだ。あの時は問い詰められて焦ってしまい、すぐには出せなかった。でも、実際に俺も見せてもらったアレ。イステリッジ公爵家の紋章が刺繍されたハンカチが。


「これを落としたということは、学園に来ていたという証拠です! 通ってなかったとしても、実際には来ていたんですよ! 彼女は、嘘をついているんです。だって、この証拠が実在しているんですから」

「そうだったのか」


 婚約を破棄したパーティー会場では、のらりくらりとかわされて有耶無耶になってしまった。そういえば、彼女が学園には一度も行かなかったなんていう証拠がない。証言しか聞いていない。思い返すと、学園でエルミリアを何度か見かけたこともあるような気がする。


 だとしたら、彼女が言っていたことは嘘なのか。もう一度、ちゃんと確かめる必要があるかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る