第13話 イステリッジ公爵家と王家の過去

 まさかイステリッジ家が、帝国に行くことになるなんて私は予想していなかった。もしかすると、お父様はずっと前から考えていたのかもしれないけれど。


 私たちの家と王家は、ローレタウ王国が誕生した頃からの関係だという。遠い昔に、王家の人間にイステリッジ公爵家の先祖が助けてもらった。その出来事の時から続いている、とても古い関係。


 王家とイステリッジ公爵家がまさか、こんな形で袂を分かつことになるなんて予想外。過去の歴史を紐解いても、これだけ関係が離れ離れになったのは今回が初めて。


 そのキッカケになったのが、私と王太子の婚約破棄。歴史が変わる。それに私が、大きく関わっている。そう考えると、なんだか不思議な気分。


 なんだかんだで、王家とイステリッジ家は今まで助け合ってきた。助け合ったというか、王国を衰亡させないため一方的にイステリッジ公爵家が援助をしてきたというのが、正しい言い方かもしれない。それぐらい忠誠を尽くしてきた。それでも、両家は良好な関係を続けてきた。


 だから今回も、話し合って元の関係に戻るかもしれないと思っていた。それが、完全に関係が崩壊する。元通りに戻るのは不可能だろう。それも、仕方ないと思う。


 特に最近は、王家側がイステリッジ家に頼りすぎるようにも感じていた。資金に人材に、押し付けられる仕事の量も半端ないほど多かった。援助というよりも、搾取という言葉が当てはまるような、一方的な関係に変貌していた。


 普通なら、搾取されている側は反発するか逃げ出しているような状況だろう。けれど、イステリッジ公爵家は王家に助けられたという恩義があった。遠い昔のことなので、詳細な記録も残っていない。


 助けられたというのは、どうやら些細な事だったみたい。それでも、恩義を返すためにイステリッジ公爵家は献身的に王家を助けてきたのだ。感謝の気持を忘れない、誇り高い一族。私は自慢に思う。今まで、王家を見捨ててこなかった。恩返しのために。


 だけど、我慢の限界がある。それに、長年の援助で恩を返してきた。もう、十分なほど。これ以上は必要ないというところまで来ていたのだ。


 婚約破棄の件がキッカケになった。この出来事がなかったとしても遅かれ早かれ、王家とイステリッジ公爵家の関係が崩れる時は、いつか来たに違いない。それが今になった、というだけの話。


 ローレタウ王国を離れることになったイステリッジ公爵家は、これからウフェイン帝国との関係を構築していくことになる。彼らと友好的な関係を築けるかどうか、それは今後の私達の行動次第となるだろう。そして、帝国が私達をどう扱ってくれるのか。


 今のところ帝国は私達を、とても丁重に扱ってくれている。それを、よく感じる。


 出来ることなら、良好な関係を長く続けていきたいと思う。お父様やイステリッジ家の皆もそう考えているはず。私も新天地で、出来ることをやっていきましょう。

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