第10話 傍観者

「おかえりなさい、お父様」


 屋敷に帰ってきたお父様を出迎える。先日の件について、賠償に関する話し合いが行われると聞いていたので、その結果を聞きたいと思って到着を待っていた。


 お父様の表情は明るい。どうやら、交渉は上手くいったようだ。


 いつも笑顔を浮かべていて、常に余裕の表情のお父様。なので実際は、表情から読み取っても結果を判断しづらい。まぁ多分、良い結果なのでしょう。お父様が失敗するはずもないし。


 あれだけの手札があって、交渉に負けるようなお父様を想像することが出来ない。


「君に関係することだ。結果について、部屋で話そう」

「はい。聞かせて下さい」


 執務室に移動して、腰を下ろした。落ち着いてから、ようやく話し合いの結果について教えてもらう。


 予想していた通り、こちらが用意していた要求は全て通したらしい。イステリッジ公爵家が統治する領土の主権と、王太子の身分を維持したまま、婚約相手を例の男爵令嬢にする事。2人の間には真実の愛が存在しているらしいので、切り離したらかわいそうだもの。


 一緒に居ることが幸せならば、そのままにしておくべきよね。




「領土を要求したのは、新たな国を興すということでしょうか?」

「いいや。領地に関しては、新たな関係を築くための準備だ」

「なるほど」


 お父様には、何か考えがあるらしい。ローレタウ王国との関係を終わらせて、別の新たな関係を築く予定。婚約破棄されたのは突然だったのに、その後スムーズに事が運んでいく。お父様は、こうなる前から準備を進めていたのかもしれない。


「王太子の件については、それで良かったのでしょうか?」

「うん。良いと思うよ」


 真実の愛が存在している相手と結婚してみたらどうなるのか、見てみたいと思ったから私がお願いした。少しワガママを言ってしまったかもしれない。他に、もっと良い要求を呑ませることが出来たかもしれないから。


 なのに私の願いを聞いて、私の望んだように要求してくれたらしい。


 王太子は、あの男爵令嬢と婚約する。その後、どうなるのか結末を見ることが出来る。


「ただし、陛下が覚悟を決めて処分するかもしれないからね。コチラの要求を表向きには受け入れて、身分と婚約関係はその通りにする。その後に病気か事故を装って、裏で2人を亡き者にするなんて可能性もある。だから、結末は見れないかもしれないね」


 お父様は淡々と、怖いことを語る。その可能性は十分にあるだろう。私は無言のまま、首を縦に振った。


「まあでも、あの陛下が非情な手段を取れるとは思えないけどね。だから、多分見れるよ。君が期待している、2人の結末がね」

「はい! 楽しみです」


 それは、本当に楽しみだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る