第5話 報告

 会場から出た私は、そのまま実家の屋敷に戻ってきた。そして、お父様が仕事をしている執務室に直行する。先程の出来事について、できるだけ早く報告するために。


「お父様、ご報告したい事があります」

「あぁ。入ってきて」


 ノックをして返事を聞いてから、付き添っていた執事が扉を開けてくれたので中に入る。お父様は手元の書類から顔を上げて私を見た。何かを書いている途中だったらしい。


「申し訳ありません。お仕事の途中でしたか?」

「いや、構わないよ。これは、お前が巻き込まれた面倒事と関係ある用事だからね」


 そう言って、笑顔で答えるお父様。書いていた書類を畳んで、執事に渡した。


「これを送っておいてくれ」

「かしこまりました」


 執事はその書類を丁寧に受け取ると、一礼してから退室した。お父様は立ち上がり、私の方に歩み寄って来る。


「さて、面倒なことが起きたようだが」

「はい。もう既に、お父様の耳にも届いていましたか」


 私が何を報告しに来たのか、お父様は予想していたみたい。相変わらずの情報網である。


「あぁ。パーティーに参加していた知り合いの貴族が伝えてくれてね。そんな事件が起きるのなら、私も一緒に参加すれば良かったな」

「いいえ、お父様。あまり参加する意味のない催し物でしたから。時間の無駄ですわ」


 お父様は仕事で忙しいので、時間を割いてまであんなパーティーに参加する意味がない。あの場で婚約破棄されるなんて、事前に予想することも出来ないだろうから。参加しておけばよかったなんて、考えるだけ無意味だ。


「さて。何が起きたのかは聞いているが、君の口からも詳しい話を聞いておきたい」

「わかりました。では、順を追って説明いたします」


 私達は、向かい合って座った。落ち着いてから先程の出来事について、お父様に説明する。


 あの場で起きたことについて、最初から最後まで順番に説明していく。どんな状況だったのか思い出しつつ、整理しながら。話しているだけでも頭が痛くなるような、馬鹿馬鹿しい内容を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る