パーティーにて

「お、来たな。まっておったぞ!」


 グレムは、水が入ったコップを持って、座っていた。


「グレム。今日は、酒瓶もっていないんだな」


「酒瓶なんのことじゃ?」


 グレムは、両手をあげて、わからないっていうジェスチャーをする。


「え、だって、この前酒」


「なんのことじゃ?」


 トッポの話を被せるようにして言う。


「だから、酒」


「なにを言っておる」


 グレムから、圧を感じる。


 トッポも気を押されたのか、黙ってしまった。


「ベンよ」


「はい」


「最後に、わしが酒を飲んだのはいつだ」


「十ね……ん! 前だと思います」


「ほら、なにを言っておる。わしが飲んでいたのは、水じゃ」


 嘘つきじじいめ、明らかに秘密基地の中にいた時、酒の匂いがしたぞ。


『ここは、酒飲んでも、怒られないから気に入ったぞ』


 前に、こんなことを言っていたな。まさか、組織内では、飲酒を禁止されているのか。


「酒、飲んでいるか、飲んでいないかは、どうでもいいのじゃ。本題に入ろう」


 自分で、話を逸らしやがった。


「ベン。用意した物はあるか?」


「はい、用意しています」


 ベンは、そう言うと、手を二回叩いた。


 すると、月と黒猫の構成員が、大きな黒いカバンを三つ持って来た。


「ちゃんと、人数ぶ……ん! 用意しております。まさにスタイリッシュー!」


 ベンは片手を上に、もう片方の手を胸に添えて、叫んだ。


「おう、スタンリッシュだな。すごいぞー」


 グレムは、適当に手を叩いて相槌をとっている。スタイリッシュも、『スタンリッシュ』って間違えているし、適当に聞いているだけだろ。


「グレム様に褒めて頂けた。なんて、嬉し……ん! こんなことも、できるのです!」


 ベンは、三回手を叩く。


 すると、荷物を持った構成員は、黒いカバンを俺達、三人に渡した。


「そして、こう!」


 ベンは、再び二回、手を叩く。


 今度は、構成員が部屋を出る。


「ははは。すごいぞー」


 グレムは、適当に手を叩いて、リアクションする。


「完璧……ん! まさに、スタイリッシュー!」


 ベンは、また片手を上に、もう片方の手を胸に添えて、叫ぶ。


「よし、次回からは、普通にやってくれ」


 グレムは、表情だけ笑顔にして、言った。


「では、失礼いたします……ん!」


 ベンは、そう言うと部屋を出て行く。


「騒がしい奴で、すまないの」


「あんな個性の塊しかない男。初めて見た」


「ははは。そうじゃろ。組の中でも、上位に入る変人じゃ」


 あれで、一番ではないのか。


「本題に戻るか、カバンの中を見てくれ」


 グレムに言われるがまま、カバンを開いてみる。


「中には、スーツなどパーティーに必要な服を入れている。武器は、スーツに仕込める隠しナイフ、投げることも出来るぞ」


 一通り、パーティーに潜入する時、使う必要な物が揃っているな。


「確かに、これで充分だ」


「では、幸運を祈っているぞ」


 グレムは、水が入ったグラスを俺達に向けて、乾杯した。



「確かに、このパーティーは、大規模だな」


 パーティー会場にたどり着くと、規模の大きさに圧倒されそうだった。


「こんな大きなパーティーの潜入は初めてだ」


 トッポも、驚いている。


 数十人が踊っても、大丈夫そうな大きな広間に、天井にはシャンデリアが、輝いている。白いテーブルクロスがかかっている長方形の机の上には、豪華な料理が並べられていた。


「まずは、通り魔が狙っている女性を見つけないとだねー」


「そうだな。彼女も、今回の作戦を知っているらしい」


 俺達の作戦を知っているなら、こちらの動きにも、合わせてくれるはずだ。単独で、動き回ることはないと思う。


 グレムが、潜入前に教えてくれた、彼女がいる場所に向かった。


「あの女性が、そうか?」


 彼女がいる場所にたどり着くと、一人の女性がシャンパングラスを片手に立っていた。


「茶髪の髪に、赤いドレス。そして、右手に持っているシャンパンは、レモンが添えている。グレムが言っていた、情報と一致している、彼女が、通り魔に狙われている女性だ。間違いない」


 彼女は、パーティーの参加者と会話するが、自分が立っている場所からは動かなかった。


「この距離だと、まだ遠いな」


「そうだねー。もうちょっと、近づきたいけど」


「通り魔に勘づかれる可能性があるな」


 トッポ達は、どうするか迷っている。


「俺は、一回、彼女に会って来る」


「本気か?」


「大丈夫。周りにバレないように、話してくる。トッポ達は、ここにいてくれ」


 俺は、近くにいたスタッフから、シャンパンが入ったグラスを受け取り、通り魔に狙われている彼女の元に向かった。


「初めまして」


「えぇ、初めまして」


 俺が話しかけると、彼女は愛想よく返事をする。


「今回、殺されたお姉さんのかたきを討つ者です」


「あなたが……」


 女性は、表情を崩さなかったが、声は驚いている様子だった。


「他にも仲間が二人、近くにいます。できるだけ、怪しまれないように、声が聞こえる範囲内にいますが、よろしいでしょうか?」


「もちろんです」


 女性は、軽い会釈を返す。


「えーと、お名前は」


「ロナと呼んでください」


「ロナさん。もし、危険だと感じたら、すぐ逃げてください。私達が必ず守ります」


「わかりました」


「では、私はこれで失礼致します」


「待ってください」


 ロナと挨拶を終えた俺は、トッポ達を呼びに戻ろうとしたところで、呼び止められる。


「はい、なんでしょうか?」


「姉のかたきを、討ってください」


 ロナの目は、真っ直ぐ見ている。


「もちろんです。私も、大切な友人を通り魔にやられました」


 俺は、そう言うと、トッポ達の元に戻る。


「おい、ロック。どうだった?」


「あぁ、彼女は協力的だ。通り魔を捕まえるぞ」


 俺達は、ロナの声が聞こえる範囲に移動する。


「普段は、動く側だったから、こういうのドキドキするねー」


 フーミンは、少しわくわくした顔で言う。


「待つのは、落ち着かない」


 トッポは、足でリズムをとり始める。


「落ち着けトッポ。怪しまれる行動をするな」


 ただでさえ、マナーや身だしなみなど、よくわかってない俺達だ。少しでも、スラム街出身のぼろがでると、怪しまれる。


「どうも、ロナさん」


「あ、セパーヌさん!」


 ロナがパーティーの参加者に話しかけられた。


 白髪だが、姿勢など立ち振る舞いは、老いを感じさせないほど、しっかりしている初老の男性だ。


「今、セパーヌって言ったか?」


 トッポが驚いた表情で言った。


「あぁ、確かに言った」


「誰なの、有名な人―?」


「有名だぞ。上級貴族の一人だ。資産は、数十億クス持っていると聞く」


「数十億クスー!?」


 フーミンは、思わず出そうになった大きな声を手で抑える。


「このパーティー。上級貴族も混ざっているのか」


 とんでもないパーティー会場だ。


「お姉さんの件は、ご冥福をお祈りいたします」


「ありがとうございます。姉ちゃんの分もしっかり生きていきたいと思っております」


「素晴らしい心構えです。私が、心配かける必要もありませんでしたね。何かありましたら、力をお貸しさせていただきます」


「助かります。その機会が、ございましたら、ぜひ声をかけさせて頂きます」


 セパーヌは、ロナと会話を終えると、その場から立ち去った。


 その後も、ロナはパーティーの参加者に話しかけられて、会話をしていく。


「あのロナって、女性何者だ?」


 トッポは、さっきからロナと会話している人物の名前が出る度に驚いていた。


「セパーヌ。ロイ。クロス。タンバリンの四人は、上級貴族だったし、他にも下級貴族の人が話しかけて来たけど」


「話しかけた下級貴族も、有名な下級貴族ばっかりだったな」


 俺達が前に潜入した、成金の下級貴族だらけのパーティーじゃない。しっかりとした地盤を持っている貴族が、数多くパーティーに参加している。


「驚きすぎて、心臓が持たないぜ」


 トッポは、出て来た冷や汗を拭う。


「トッポ。本命は、通り魔だ。忘れるなよ」


「わかってる」


 だが、今まで話しかけた貴族の中には、怪しい人物が見当たらなかった。


「ロック。トッポ。次の人が来たよー」


 ロナに一人の人物が近づいてくる。

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