第四章
次の日
俺とトッポ、フーミンは、秘密基地の前に集まっていた。
「みんな、集まったか」
「おぅ」
「準備いいよー」
ランタンの数を見てみると、三つしかない。てことは、秘密基地の中にはグレムがいると確信した。
俺達の人生が大きく変わる。そんな感じがした。
「ははは。約束通り来たか」
秘密基地の室内には、予想した通りグレムの姿があった。
グレムの足元には、空になっていると思われる酒瓶が一本転がっているが、そしてグレムの左手には、酒瓶がもう一本あった。
どんだけ、酒好きなんだ、このじじい。
「ここは、酒飲んでも、怒られないから気に入ったぞ」
「勝手に、お気に入りな場所にされても困る」
「そんな冷たいことを言うなよ。ははは!」
グレムは、そう言うと、酒を一口飲んだ。
「酒を飲みながらでも良い。本題に移ろう」
グレムは、持っている酒瓶を近くにある机の上に置く。
「今度、月と黒猫が運営する会場で、大規模なパーティーが行われる。君らには、そこに侵入してもらい通り魔を見つけてもらう」
「パーティー? なんで、俺達がパーティーになんか行かないといけないんだよ」
「それは、通り魔が、貴族である可能性が高いからじゃ」
「貴族が、通り魔をしているのか? なんで?」
トッポは、驚いたような言葉で聞いた。
「それは、通り魔である本人に聞いてくれ。わしには、理由がわからん」
「どうして、通り魔が貴族だってわかった?」
「目撃者に、スーツを着ていたって、言っているやつがいたんじゃ」
「犯人が、スーツを着ていたって話、新聞には載っていなかったぞ」
ヘイホーが死んだ次の日、俺は、くまなく新聞に目を通した。だけど、通り魔がスーツを着ていたって情報は、どこに書いていなかった。
「そうじゃろうな。捜査している兵も、新聞発行している記者も、確定的な証拠がない限り、貴族が犯行したって言えないからな」
「この情報は、そこから手に入れたのー?」
フーミンが、手をあげて聞く。
「月と黒猫の情報網じゃ。新聞に載ってないことから、貴族のスキャンダルまで、何でも手に入るのじゃ」
グレムは、そう言うと笑顔で、親指を立てた。俺達の秘密基地もばれていたんだ。下手な情報屋より、情報を持っている可能性がある。
「犯人が、貴族の可能性が高いのは、わかった。俺達は、どうすればいい? 貴族全員を尾行するのは、人数的に無理だぞ」
「餌を用意する」
「前回の事件で、殺された被害者の妹か」
「正解じゃ。勘がいいの」
「俺達は、その女性を監視して入ればいいのか」
「そうじゃな。彼女に近づいてくる貴族を観察して、通り魔を見つけるのじゃ」
それなら、難易度は格段に落ちるな。
「だが、貴族だけだと、通り魔がわからない。他にも特徴があったら、教えて欲しい」
「そういうと思って、もう一つ証拠を用意しておる」
グレムは、ポケットから何かを取り出し、俺に渡した。
「これは、ボタン?」
鳥の紋章が刻まれているボタンだ。高価なボタンみたいだ。
「そう、ボタンだ。これは、わしの孫が、見つけた物じゃよ」
「あんたの孫が?」
「あぁ。本当は、自分で婚約者のかたきを討ちたかったんじゃ。だが、組織の方針には逆らえず、せめての復讐で、証拠探しを必死にしておった」
「あんたの孫の分もしっかり、つけを払わせるよ」
「ちなみに、そのボタンは、あんたらの死んだ仲間が、襲われたとされる現場で落ちていたらしいぞ」
てことは、このボタンは、ヘイホーが残してくれた証拠でもあるのか。
「ロック。絶対に仇を討つぞ」
「当たり前だ。絶対につけを払わせる」
俺とトッポが話しているのを、グレムが聞くと笑みを浮かべた。
「ははは。いいの若さを感じるわい」
「パーティーは、いつやるんだ?」
「明日じゃ。パーティーで着る服など、必要な物は用意しておく。お前らは、心の準備をしておくんじゃな」
「明日は、どこに行けばいい?」
「ここのオフィスに来てくれ。月と黒猫が使っている拠点の一つだ。パーティー会場からも近い」
グレムは、そう言うと丸印がついてある地図を渡してきた。
「わかった、ここだな」
「わしも、明日そこにおる。また、会おうな」
グレムは、酒瓶に入ってある酒を飲み干した。
「今回も、時間ぴったしじゃ。さすがじゃのわし。ははは」
「もう一瓶、忘れているぞ」
落ちていた瓶を拾い上げて、グレムに投げ渡した。
「おっと、悪かったの」
グレムは、両手に酒瓶を持ったまま秘密基地を出た。
秘密基地内は、沈黙が流れる。
「くそ。ヘイホーを殺したのが、貴族だったのか!」
トッポは、近くにあった木箱を蹴り上げる。
「やっぱり、貴族は、どこまで行ってもクズしかいねぇ!」
「落ち着け、トッポ。復讐なら、明日できる」
俺も、内心は今すぐにでも復讐をしたいが、犯人の手がかりが二つしかない。貴族であること、鳥の紋章が入っているボタンをしていることだ。
「それにしても、大規模なパーティーの運営もするなんて、月と黒猫すごいなー」
フーミンは、月と黒猫の規模が大きいことに驚いていた。
「確かに、あいつらマフィアなのに、貴族とつながりがあるのか」
ただのマフィアだと見ない方がいいかもしれない。貴族のパーティーを開くってことは、貴族ともつながりがあるんだろう。
「そんな問題は、どうでもいい」
トッポは、スラム街の中でも、一番と言っていいほど貴族嫌いだ。そんな貴族に、仲間であり親友でもあるヘイホーを殺されたんだ。相当、怒っているんだろう。
「ロック。今日はどうするー?」
フーミンが俺の顔を見て尋ねてくる。
「準備は、あっちがするみたいだし、やることはないな。早いが、解散して心の準備をしておこう」
「その方がいい。俺は、外で頭を冷やしてくる」
トッポは、そう言うと外に出て行った。
「トッポ、よっぽど怒っているねー。確かに、ヘイホーの仇は、討つけど、こういう時こそ冷静にならないとー。感情を高ぶらせるのは、ヘイホーを殺した奴を殺した時でいい」
「フーミン」
フーミンから、殺気が伝わってくる。
フーミンは、冷静を装っているが、内心は一番怒っているのかもしれない。ヘイホーと一番距離が近いのは、俺達三人の中でも、フーミンが近かった。
「俺も、ちょっと頭に血が上っちゃった。落ち着くために、帰るねー」
「あぁ、またな」
フーミンは、そう言うと、外に出て行った。
「俺は、コトミのとこにでも行くか」
俺は、フーミンとトッポ以外に友達がいない。話を聞いてくれるのは、コトミしかいなかった。
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