鳥人族の住む村に連れてこられたが俺には翼がない。

中原恵一

第1話 落ちるぅううっ!

 昼ごはんを食べ過ぎたせいか、あるいはあまりにも退屈だったせいか、あろうことか田中カケルは世界史の授業中に居眠りをしてしまった。

 そう、よりにもよって厳しいことで有名な高橋先生の授業で、だ。


「うわあああ、落ちるぅううっ!」

「おい、コラ! カケル!」

 頭を丸めたプリントで軽く殴られて、カケルは跳び起きた。

「ハッ、ここは教室っ!」

「当たり前だっ! 昼間っから何の夢を見てたんだ、お前は!」

 高橋先生はしかめっ面で声を張り上げた。

「いや、最近なんか、スカイダイビング? する夢をよく見るんすよ」

 彼としては大真面目に実際に見た夢の内容を話しただけだったが、クラスメートたちはドッと笑った。

 一方、高橋先生はドスを効かせて、

「今度寝たらテストの点数関係なく成績下げてやるからな!」

 カケルに最後通告をした。

「はひっ、ホントすんませんしたっ!」

 彼は全力で授業に集中するをした。


 カケルはまだ高校二年生だが、秋学期に入ってから一応受験勉強がスタートする時期になっていた。

「えー、このように、古代インドで始まった上座部仏教がセイロン島を経て東南アジアに伝播していった訳ですが——」

 カケルはあくびをかみ殺しながら、世界史の資料集をパラパラと眺めていた。

(ダメだ、何も頭に入ってこない)

 窓の外を飛ぶ鳥たちを眺めつつ、どっか遠い世界にでも行きたいな、なんて考えていると、キーンコーンカーンコーン、という鐘の音が鳴った。

 今日の授業はこれでおしまいだった。

「ふぁぁあ……」

(授業中はなんとか耐えたけど……、もう限界)

 眠気に負けて、彼は世界史の教科書を枕がわりにそのまま教室で眠りに落ちてしまった。


 気がつくと、カケルはさっきの夢の続きを見ていた。

 パラシュートも何も持たずにウン千メートルも上空からひたすら落ちる、という夢で、かなり玉ヒュンなものだ。

 風を切り、雲を突き抜け、まるで隕石のようにただ地面へ向かって一直線に落下していく。

 夢のように美しい光景だと思う方もいらっしゃるかもしれない。

 しかし。

(雨粒がっ、顔にっ、当たるっっ!!)

 凄まじい勢いで水滴が体中に叩きつけ、目やら口やらを直撃する。これではまともに思考することもままならない。

(それにしても、これリアル過ぎないか……?)

 カケルは必死で夢よ覚めろ、夢を覚めろ、と祈った。


 しかし問題は、、ということだった。

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