【ヤクソ・ヴィースィトイスタ-要するに第十五話-】悲恋☆彡【ヴィフレア・ルク-緑の章-04-】

「さっきそう言えばイナゴーロクとか言ってたな」

 怪人の名前か? 割とそのままだよな。

 適当な名前つけやがって。いや、薬の名前も割と適当なの多いよな。

 そんなもんなのかもしれないな。

「イナーゴロクだ」

「イナゴの怪人かなにかか?」

 なんでバッタばっかりかよ。

 秘密結社バッタバタかよ。

「その通りだ」

 でも、待って!? バッタ二匹に襲われるアンバーきゅんはありか? そもそも襲われるっていうのはどうなんだ?

 多少、強引なのはいいが、はなっから力ずくでというのは私の趣向と合わないよな。

 アンバーきゅんが実は誘い受けの才能を持ったビッチショタだった?

 それは…… 少し解釈が違う。うん、アンバーきゅんは初めは何も知らないピュアでいて欲しい。

 そして、最初は戸惑いながらも、今は魔法少女の体で女の子だから、って、そのときめきを事後に認めて欲しい。

 うむ、バッタ二匹に襲われる展開はないな。ないない。私の趣味じゃない。

 で、今は毒電波遮断怪人・キリギリースと共にアンバーきゅんの元へと向かっているのだが、辿り着いた場所は随分と人通りが多い場所だった。

 言うならば駅前の繁華街だ。

 今まではビルの上をその言葉通り飛ぶように移動してきたから目立ってないけど、今は地上に降りてしまっている。

 変身しているから私とはわからないけど、流石にこんな格好で大勢の前にでるのは流石に恥ずかしいな。

 なんだよ、このうさ耳。それにスカートからも飛びて出るウサギの尻尾。

 スーツ姿の下は実はバニーガールだしな。

 魔法少女がバニーガールでなんだよ。

 コスプレかよ。

 そういや、本当にコスプレな可哀そうな奴もいたっけ。

「おい、こんな駅前にアンバーきゅんはいるのか?」

「こっちだ」

 そう言って、キリギリースはお洒落なビルに入っていく。

 私もそれに続く。

 しかし、人間大のバッタがいるのに、ここにいる人は全然騒がないな。

 課長は一目見て気絶してたのにな。

「おい、おまえ。なんで周りが騒いでない? おまえは人間大のバッタなのに」

「ここいらは行きつけの場所でな」

 動じることなくバッタはそう言った。

 そういうものなのか?

 まあ、確かに多様化の時代だし、そういうこともあるのかもな。

 見慣れているというなら、そうなのかもしれない。

 が、だ!

「行けつけの? おい、アンバーきゅんの所へ来たんじゃねーのかよ!」

 そうだ、こんなところに来ている場合じゃない!

 来るとしてもアンバーきゅんを連れてから来いよ。

 そうしたら、いい酒の肴ができる!

「安心しろ、約束は守る。貴女を口説いた後、そのアンバーとやらも口説いて見せよう」

「私はいんだよ、後口説くんじゃねーよ、……いや、それはそれでありか」

 女ったらしのバッタに引っかかる魔法少女姿のアンバーきゅん。そして、バッタに本気になってしまうショタのアンバーきゅん。

 禁断の愛と知りつつも、男同士、種族間を超えてバッタに告白するアンバーきゅん。バッタも一度愛した魔法少女の面影をショタバーきゅんに感じ、その告白を受け入れる…… 後は流れでエトセトラ……

 うんうん、大分ディティールがはっきりしてきたな。

 これは行ける! そんな気がするぞ!!

 あとは本番を見て、インスピレーションを高めれば良いだけだ!

「今はともかく先にアンバーきゅんを口説いて落として、ちょめちょめして来いよ、バッタァ!!」

「なんと品のない魔法少女だ」

 いや、なんか私、バッタに呆れられてるんですけど?

 うん、まあ、自分でも自分の言動を顧みるとそう思うよ。

「うるせい、そんなもん生まれたときに捨てて来たわ!」

 だが、そう、そんなものは私にはなくていい。

 仕事以外の私は欲望のまま刹那を生きる女!

 恥などどうでもいいわ! 特に今は魔法少女の姿だしな!

「だが、相手は男なのだろう、こちらとてシラフではやってられん」

「ああ、なるほど。まあ、ノンケならそうだよな。私も急にレズれって言われても無理だしな。よし、酒を煽ってからいくぞ!」

 なんだよ、このバッタもとうとう覚悟を決めてやる気になってくれたか!

「うむ、ここの六階に雰囲気の良いバーがある」


「でさぁ、聞いてよ、バッタぁ…… 私はさぁ、自分の時間を大切にしたくてさ、わざわざ事務員を希望したのに、なんで残業続きなのよぉ……」

 なに、ここのお酒、美味しいぃ!!

 こんなお酒飲んだの久しぶりだぁ……

 なんかふわふわして来たぁ……

「ふむ、それは大変だな。ヴィフレアよ。なら仕事を辞めて家庭に入ったらどうだ? 相手はいないのか?」

「いないわよ!」

 いないわよ、私の求める条件の男なんて。

「なんと、こんなにも美しい貴女に相手がいないのか?」

 美しい? 誰のこと言ってんの?

 ああ、私かぁ? ぐへへ、バッタの癖に嬉しいこと言ってくれるじゃん。

 でも、この姿の私は本当の私じゃないんだよぉねぇ、残念でしたぁ!

「この姿は変身した私の姿で、本当の姿じゃないものぉ…… 本当の私なんて地味で陰キャな女なのよぉ…… それに今は創作活動が楽しくてさぁ、恋愛している暇なんてないしぃ」

「創作活動か、素敵な趣味を持っているじゃないか」

 何このバッタ、良い奴じゃん!

 このバッタと恋仲とか無理だけど、たまに飲むくらいなら良いな。

 声はいいし、容姿を見なければ問題ないな。うむ。

「え? なに? 認めてくれるの? バッタァ、あんた良い奴だなー、あんたが人間だったら私は惚れてたよ」

「種族などそう気にするものではない、よく考えて見ろ、見た目など所詮仮初にすぎない。魔法少女である貴女がそうであるようにな」

 何訳の分からんことを言ってんだ、このバッタは。

 所詮、虫かぁ…… あれぇ、少しお酒飲みすぎたかなぁ、ぐるぐるするぅ……

 あははははは、気持ちいいなぁ……

「そんなこと言ってぇ、種族が一番大事でしょうがぁ! 親にこの人が結婚相手ですぅー、って、バッタを紹介できるわけがないだろぉがよぉ!」

 そうだぞ、どの面下げてバッタを親に紹介しなくちゃなんねぇーんだよ。

 さすがに寛大なうちの親も許しちゃくれねぇよ!

「安心したまえ、私の歌声は相手に幻惑を見せることが出来る。貴女の親には私を人間のように見せることなど造作もないことだ」

「流石バッタ! あれ? バッタって鳴くの? あっ、歌声かぁ……」

 幻惑ぅ? それがこの怪人の魔法の力かぁ……

 今この、気持ちが良くてふわふわしている状態も、こいつの魔法かぁ!

 なんてぇふてぇ野郎だぁ!

 わらしぃを、酔わせてぇ、どうするつもりなのよぉ……

 えへへ、こっそり鞭を見えない状態でバッタに巻き付けておこっとぉっと!

「私はキリギリスだ」

「あー、そうだそうだ、キリギリスだ。え? キリギリスって鳴くの?」

 バッタの事なんてわかんないわよぉ、キリギリスって鳴くんだっけ? 鳴いた気がするなぁ、あっ、だからアンバーきゅんが攻めになったんだっけ!

 じゃあ、さぞかしいい声で鳴いてくれるんだろうなぁ、バッタよぉ!

「ああ、とてもいい声で歌える」

「なら、やっぱ、おまえが受けだな、ひゃひゃひゃっ……」

 鳴け! もっといい声で! その渋い重低音の声で、情けない声で嗚咽を私に聞かせてくれぇ!!

「ぬぅ」

「じゃあ、そろそろぉ、良い感じに酒もぉ、入ったところで、アンバーきゅんのところへ行こうぜ、なあ、おい」

 そうだお、これ以上飲んだら、私のほうが酔っちゃうからなぁ……

 そろそろ、アンバーきゅんの所へ行かないとぉ。

「今頃、そのアンバーとやらも、我が盟友イナーゴロクによって討ち果たされ他に違いあるまい、諦めよ」

「ひゃっはっひゃっ、無理無理無理。アンバーきゅんは絶対に倒せないよぉ…… あの子、倒しようがないもん」

 何コイツ、アンバーきゅんの所に行く気ないのぉ……

 じゃあ、ヤっちゃう? ヤッちゃおうかな?

 そうだな、もう大分イメージ固まったし、なんかもう面倒だしぃ…… 眠いしなぁ……

「ほう? しかし、我が盟友を舐めないでもらいたいな」

「だって、あの子、本当の意味で不死身だもの。核爆弾を使っても死なない魔法少女だって、ぬいぐるみが言ってたもんよぉ」

 確かぁ、わらしたちの中で一番魔法の資質が高いんだっけぇ?

 なのに、ヒーロー見たく戦いたいって言って、自分の体を魔法の武器にしたのよね、それで出来上がったのが無敵の肉体。あれは無理だよ、倒しようがないよぉ。

 私はこの茨の鞭を愛用しているけど。

 だってぇ、虫相手に素手で戦いたくないしぃ。

 それに魔法とかさ、なんか信じられないじゃん? やっぱ武器よ、武器! まあ、この鞭も魔法の武器なんだけどぉ!

「なに? それは本当なのか?」

「そうよ、手足がもげたって一瞬で再生するような子よ? 無理だってぇーのぉ」

 実際にもげたところ見たことないけどねぇ、あのぬいぐるみが言ってただけでぇ!

 きゃははははっ!

「むむっ、イナーゴロクよ、無事でいてくれよ」

「アンバーきゅんの所へ行く気になった?」

 お友達がぁ、心配でしょぉ、いこーよぉ、アンバーきゅんのとことへぇ、見ればバッタも気に入るよぉ、そういうお話だものぉ!!

「まずは貴女を口説きおとしてからだ」

 その言葉が私を酔いから一瞬で目覚めさせる。

 そう…… こいつはじめっからアンバーきゅんのとこへ行くつもりがなかったのね。

「はぁ…… つまりアンバーきゅんの所へ行くつもりはないという事ね?」

「そうは言っていない」

「同じことよ、私がバッタ相手にどうこうなるわけがないでしょう?」

 何度見てもバッタはバッタだ。

 所詮、虫、雰囲気イケメンでも虫は虫。

 どうにかなるって話じゃねぇんだよ。

「この姿が気に入らないと言うのであれば、我が声色で貴女に幻惑を見せよう」

「無理よ、だってあなた青臭いし、草しか食べてないからよ」

 そう、後コイツ草の臭いすんだよ、バッタだから!

「キ、キリギリスは、私は雑食性だ、しかも、どちらかというと肉食寄りだ」

「まあ、無理よ。だって、あなたバッタだもの! そんなんで恋愛対象になるわけないでしょう?」

 なんで私がバッタと恋愛ごっこをしなくちゃいけねぇんだよ。

「貴女だって、私とアンバーをくっつけようとしているではないか!」

「それはそれ、これはこれよ。バッタがかっこつけようが何しようが、バッタはバッタなのよ! 大人しくアンバーきゅんとちょめちょめしてれば助かったって言うのに!」

「ならば、交渉決裂だな。私の歌声で幻惑され、虜となるがいい!」

 あー、鞭を見えない状態で巻き付けといてよかった!

 酔ってても私は私ね。

「歌えるの? 既に私の鞭があなたを縛り付けているけど」

 そう言って鞭を実体化させてやる。

 途端に、茨の鞭の棘がバッタに食い込む。

「なっ! これは! いつの間に!?」

「そう言う魔法なのよ。じゃあね、運命のお相手さん。私じゃなくて、アンバーきゅんのだけど」

 そう言って私は力強く茨の鞭を引く。

「グワァー!!」

 という断末魔と共に、バッタが文字通りの細切れになり店内に飛び散っていく。


 いやー、えらい目にあった。

 だってさ、あのバッタ倒したら、周りの連中が急に叫びらしてさ。

 ああ、そうか、あれがバッタの幻惑の魔法の力だったのか。

 そりゃ急にバラバラの人間大のバッタの死体が出てきたら叫び声も上げるってもんか。

 あー、変身しててよかった。

 そして、本当に良かったー、幻惑に囚われる前に倒せて。

 幻惑に囚われてたらバッタの嫁にされるところだったわよ。

 今は荷物を取りにいったん会社に戻ってきて変身を解いて更衣室で着替えているところよ。

 課長はまだトイレの中にいると思うけど、まあ、平気でしょう。

 さて、と。着替えも終わったし、さっさと帰ろ! もう酒もはいっちゃってるしね。

 それよりもなりよりも、今日は書きたいことが山積みなのよ!

「森田さぁん……」

 着替えを終え、更衣室を出たところで陰気な声に呼び止められる。

 おい、やめろよ、更衣室をでたところで声をかけるなよ、色々とびっくりするじゃんかよ。

「え? はい? 誰ですか?」

 見たことある人だな、確か開発の人だよね。山本主任だっけ?

 でもなんで、この人、頭にアルミホイルを被ってんだ?

「ワシ…… いや、私は、開発主任の山本と言います。少し…… お時間よろしいですか?」

「え? ええ、少しなら?」

 本当に少しなんだろうなぁ、私は早く帰りたいんだよ。




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