【ヤクソ・ネルヤトイスタ-要するに第十四話-】運命の出会いかもしれない☆彡【ヴィフレア・ルク-緑の章-03-】

 そんなわけで私と課長は女二人で、深夜の社内を探検? 肝試し? することになった。

 何が悲しくてアラサーの女子二人で、平日の夜にそんなことしなくちゃいけないんだよ。

 まだ遅い時間じゃないので、どの部署も電気がついているし、こんなんで幽霊何て出るわけじゃない。

 まあ、多分…… 噂の幽霊の正体は、魔法界がらみなんだろうけど、というか、うちの会社が悪の組織の総本山なわけ?

 なんだっけ、毒電波遮断教団だっけ?

 いやいやいや、うちは割とまともな会社だし、会社がらみは……

 いや、どうだ? 製薬会社なんて……

 内情を知っているだけに何とも言えない。

 ありそうで、なさそうで、ありそうで……

 でも、うちの会社が魔法の力を手に入れたら、それを利用して間違いなく新薬開発するはずよね?

 最近、画期的な新薬を作ったとか作ってるって話は聞かないし?

 いや、秘密で作ってて、その結果が怪人や戦闘員?

 いやいや、それこそ変じゃん、怪人作成はあのぬいぐるみの弟の魔法でって話だったはずだし。

 じゃあ、会社がらみってことはなさそう?

 この会社の誰かが、あのぬいぐるみの弟を監禁しているっていう感じ?

 一応、その辺だけでも確認はしておこうかな?

「で、課長、その幽霊? 妖怪? はどこで出るって話なんですか?」

「えっとね、開発のほうね、開発研究室の方でよく見るって話よ」

 あっちのほう用がないから基本行ったことないし、私が知らないのも無理ないか。

 そもそも、この会社でよく喋るの課長だけだしな、私。

 後は皆、主婦なんだよ。話し合わないんだよ!

「それ、よく見るってレベルの話なんですか?」

「ほら、あそこは変人が多いことでも有名じゃない? 何日も泊まり込んで研究し続けてるうちにね? だから、そういう格好の人がいても、大体またか、で終わってたんだけど、今回はどうも様子が変らしくて」

 またか、で終わるレベルの話なのか。

 いや、まあ、変人が多いのは聞くことあるけれど。

 人間、まともな生活してないとやっぱり変になっちゃうのかしらね?

「その幽霊がですか?」

「まあ、幽霊って言っちゃったけど、頭にアルミホイル巻いた黒い影らしいのよね」

 あー、ほぼ当たりじゃん。

 いつでもこのバイトを終了できそうだな。

 でも、アンバー君の生態を観察するまでは終わらせんぞ。

「というか、研究室のほうやけに暗いですね」

 研究棟に初めてはいったかもしれない。

 へー、この辺りは普通の事務所と変わんないんだなぁ。

 もっとフラスコとかビーカーとか、顕微鏡とか置いてるイメージあったけど。この辺りは研究室じゃないからか?

「あー、一応ね、見た目上は帰っているってことになってて…… 十八時過ぎたら、研究棟の電気を消さないといけないみたい、ほら、モニターの明かりはついているでしょう?」

 そう言って、課長が室内を指さすと、青白い光がデスクごとに見えている。

 なんだ、この光景。

 研究の連中を助けるふりして余計に迷惑かけてんじゃん。

 建前と本音って怖いわ。

「本当ですね、うわー、会社の闇を見てしまいました。あんまりこっちに来たことないから知りませんでしたよ」

「まあ、そんなわけで夜になると、見た目は真っ暗になるから、ただの見間違えって線はあるとは思うんだけど…… オカルト好きとしては一度くらい本物って奴を目にしたくてね」

 そう言って課長は楽しそうな笑顔を見せてくれた。

 いやー、本当に好きなのね、オカルト。

 その気持ちだけはわかるので、私は課長のことは馬鹿にしたりしないわよ。

「オカルト部の血が騒ぐって奴ですか?」

「え、ええ、そんなところ…… で、えっ? バッタ?」

 課長の目が点になる。

 課長の視線を追うと確かにそこには、お洒落なスーツを着たバッタがいた。

 人間大のバッタだ。

「バッタですね……」

 私もそう言うしかなかった。

 なんか見覚えのある幽霊というか、妖怪というか、怪人だ。

 課長がそのまま私にもたれかかってくる。

 それを必死に支えるが、どうも課長は気絶してしまったらしく意識がない。

 何がオカルト好きだよ、本物を見て気絶してるんじゃないかよ!! 

 課長を必死に支えているところに、人間大のバッタが近づいてくる。

 これヤバイ、ヤバクない?

「おっと、失礼。驚かせてしまったかな。私はこれから仕事に行かなくてはならないので、気をつけて」

 渋く低く通る重低音の声でそのバッタはそう言って、倒れそうになる私と課長を支え、課長の身を私に完全に預けてから、そして、何もせずにクールに去っていった。

 な、なんだ、あのバッタは!?

 しかし、来た! 来てしまった! 脳内にビビビッと! 電撃が走ってしまった!

 アンバーきゅんのお相手はあのバッタだ!! 物腰柔らかな気の弱い高校生何てもうどうでもいい!

 あのバッタこそがアンバーきゅんの運命の相手だ!

 な、ならしっかりと観察しなくちゃいけない!

 追わないと! このゴミを…… 課長をトイレにでもしまい込んでおいて、早く追うぞ!!


「待ちなさい! あなた、毒電波遮断教団の怪人…… なのでしょう!」

 魔法少女に変身し、怪人に追いついた私は即座に、躊躇なく、声をかける。

「ほう、よくわかったな。まずは名乗ろう、私は毒電波遮断怪人がキリギリースだ」

 振り返り私の姿を確認した怪人は礼儀正しく、しかも、お洒落で若干きざったらしく挨拶をした。

 にしても、バッタじゃなくてキリギリスだったのか!

 それは良い声で鳴いてくれそうな怪人ね、うへへ、これはもう決まった、決定的に決まった!! アンバーきゅんが攻めね!

 キリアンからの一転攻勢で最終的にはアンキリね。

「私は魔法少女・ヴィフレア・グリーナリーよ。でも私の名前はどうでもいいの。あなたはこの名前、ケルタイネン・アンバーの名だけ覚えて帰りなさい」

 私は私の要件だけを早口で伝える。

 興奮しすぎてて自分で何を言っているのかもわからない。

「ほぅ、何を言っているかわからないが、私の狙いは緑の君である貴女だ」

「は? 私? なんで?」

 何言ってんだ、このバッタ。

 いや、キリギリスか。

 どっちでもいいわ、ついでに私のことなんてどうでもいいわ。

「貴女を口説き落とすことが私の使命となっている」

 超低音の響く声でそう言われるのは嬉しいけれども、見た目キリギリスだしな。

 お洒落なんだけど、キリギリスだしな。割とそのままのキリギリスなんだよな。

 うん、ないわ。目を瞑って声だけ聴くのはありなのかもしれないが。

 まあ、どうでもいいことよ。

「はぁ? 何言ってんのよ、そんなことより今からケルタイネン・アンバーきゅんを口説きに行けよ。私がバッタだかキリギリスとか死んでもねぇーよ」

「おやおや、仲間を売るのか?」

 なんだこのバッタ。

 私の暴言に対して紳士だなぁ。

「仲間とかそういうことじゃねぇんだよ。おまえはケルタイネン・アンバーきゅんを口説いて逆に襲われて帰って来いよ、コラァ!」

 そう言って、近くに捨ててあったゴミを蹴り飛ばしてバッタにぶつけようとする。

 バッタはそれを余裕でかわし、そのことには触れようともしない。

 とことん紳士だな。

「ハハッ、乱暴なお嬢さんだ。なぜ仲間を売るようなことを? 理由次第では貴女の言うことを聞くこともやぶさかではない」

 うーん? なかなか話の分かる奴だな。

 仲間、仲間ねぇ? 仲間なのかしら?

 良くわからないし、そもそも興味ないのよね。

 私からしたらストレス解消とお小遣い稼ぎなだけだし。しかし、今はそんな事どうでもいい。

「そういう趣味だからだよ、あぁぁああぁぁぁぁ、一度想像しだすともう止まらなねぇ! まずはアンバーきゅんが少し強引に怪人にちょめちょめされて、その後、男に戻ったアンバーきゅうにお前がちょめちょめし返されて来い! 話はそれからだ!」

 自分で言っててなんだが、興奮した私、ただのヤバイ変態だな。

「なに? そのケルタイネン・アンバー、名前からして黄色の魔法少女か? その正体が男だと?」

 虫だから表情の変化がまるでわかんねぇよ。

 驚いてはいそうだけど。

「そんなもんは知るか! 実際のことなんかどうでもいいんだよ、少なくとも私の中じゃそうなってんだよ!」

「なんだ、このいかれた女は……」

 うっ……

 実際に自覚はあるが言われると結構来るものがあるな。相手が虫でも結構心に来る。

「さもなきゃ、お前はここでバラバラだ」

 そう言って私は茨鞭を振るう。

 それはバッタの近くの道路を深くえぐる。

 軽く振っただけだがかなりの威力のはずだが、バッタ怪人はまるで動じた様子はない。

「是が非もないと?」

「そうだよぉ、で、どうする?」

 なんだこれ、怪人に魔法少女を襲わそうとしている私はなんだ?

 真の悪役かなにかか?

 いや、冷静になるな、私、欲望に正直に生きるんだ! 私は刹那を生きる女!

「ふむ、貴女のために道化を演じるのも悪くはない」

 なんだ、このバッタも乗り気か、そうかそうか、私を口説くとか言ってて実はそっちもいける口か。

「そうかそうか、やってくれるか? 私はバレないように撮影しているから、手筈通りにやってくれよ」

 なにが手筈通りなのかは私も知らない。でもそういう雰囲気って大事だろ?

「撮影までやるのか? まあ、いい。だが、忘れないでほしい、私は貴女のためにやるのだということを」

 何だこの恩着せがましいバッタは。

「おぅよ、いいのが取れたら、私の足くらいなら舐めさせてやるよ」

 私が得意になってそう言うと、少しの間があってから、

「足など舐める趣味はないがな。で、ケルタイネン・アンバーはいずこに?」

 と、バッタ怪人が言ってきた。

 そうか、その趣味はないのか。

「知るか、ぼけぇ、てめぇで探してこい!」

 そう怒鳴る私は、まるでむちゃぶりをする中年太りの部長のようだ。

 あー、やだやだ。嫌いな人間でも近くにいると影響を受けるもんなのよね。

 課長も部長には大分苦労させられてるよね、間違いないわ。

「ふむ…… 確か私の同胞の怪人がその魔法少女の元に向かっているはずだ、聞いてみよう」

 コイツ…… もしかして有能なのか?

 これで普通のイケメンで稼ぎがよかったら優良物件だったろうに。

 なんでバッタで生まれてきた。

 お前は人間で…… いや、バッタでよかった。

 相手がバッタだからこそ、アンバーきゅうの良さがより引き立つんだ!

 化け物と美少年…… なんと素敵なハーモニー。早く私にその声を、哀れな歌声を聴かせておくれ!

「じゃ、そいつがやれる前に聞けよ、早く! 早く! 早く!!」

 アンバーきゅんが相手じゃすぐに決着がついちゃうじゃねーかよ。

 多分だけど、アンバーきゅんが私達の中で一番強いぞ。

「やられること前提とは舐められたものだな。まあ、いい、聞いてみよう」

 そう言うとキリギリースはスーツの中からスマホを取り出す。

 虫の手で器用に操作する。

「もしもし、私だ、キリギリースだ。イナーゴロクよ、そちらの状況と場所を教えてもらいたい…… ふむ、なるほど。ありがとう、助かった。私も今からそちらに向かう」

「場所はわかったのか?」

 なんだ、このバッタ、本当に優秀じゃねーかよ。

「ああ、大体の場所だが問題はない」

「じゃあ、向かうぞ」

 私は上機嫌でバッタの背中を叩いた。




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