大空に向かってハイタッチ

古河楓@餅スライム

第1話 狭い世界

 かあー、かあーっと遠くでカラスが鳴く。夕方を告げる午後5時過ぎの空は、一面夕焼けに染まっていた。元工事現場の空き地に置かれた資材の上に男女は二人。彼らにとっての特等席から見る夕陽は見慣れていても綺麗だ。


 綺麗なのに……一人は、どこか遠くを見つめるような眼をしている。


「なぁ、“ゆうくん”。この街ってさ、狭いと思わない?」

「なんだよ、いきなり」


 肩まで出る白いシャツを泥だらけにした少年……のような少女は、遠くで囀るカラスを見つめながら、さらにつづけた。


「ボクたちはさ、もうこの街を隅から隅まで見た気がするんだよ。3丁目の駄菓子屋も、川向こうの精米所も、公園近くのカフェも、大工のお頭がいつもいってるバーの場所もさ。でさ、ボクは思ったんだ」

「なにをだ?」

「この街から、出たい。まだまだ先のはなしだし、想像もできないけどさ……高校生になったら、ここから遠い街に進学しようよ」

「……いまからする話じゃねーじゃん」

「ははっ、そうかも。でもさ、もしほんとうにできたらさ。“ゆうくん”とずっと、どこまでも冒険できると思うんだよ」

「なんだ、そりゃ」


 “ゆうくん”と呼ばれた少年は、少女の方に向けて呆れたような顔を向けるが、それは彼女の満面で悪戯っぽい笑顔で黙らされてしまった・


「友達、じゃん。だからさ、覚えといてよ。もちろんボクも覚えてるし、今後離れ離れになることなんてないと思うけどさ」

「……あぁ。できればな」

「ちがう、やくそくだよ。ほら、指切り」

「……しょうがないなぁ」


 最上段に座る少女と、その少し下に座る少年は、お互いの小指を絡ませて、こういった。


「指切りげんまん」


 と。

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