下位魔法火弾、火炎弾と同じ威力?


 ボクを「ちっちゃい」っていう、テオの言葉には、なんかね、カチンとくるんだ。

 いつまでも子猫じゃだめなの? 


 ちょっと悩んじゃった。でも、だんだんとちっちゃい方がいいかもって思えてきたよ。

 なぜって? 子猫の方が、みんなに可愛がられるんだ。


「ミー、ミー」


 小首をかしげてねだれば、すぐ美味しいものを食べさせてもらえるはずだよ。




 テオと出会うまでは、暗くて暖かいとこにいた。暖かい兄弟姉妹とぬくぬくしてた。

 お腹いっぱい美味しいものを飲んでたんだ。でも……。


 熱かった。痛かった。訳がわからなかった。……怖かった。

 あの時のことはあんまり思い出したくない。



 それから、テオと出会った。

 熱さも痛さも怖さも、急になくなって気持ちよくなったんだ。

 あの日からかな? 世界に色がついて、広がったんだ。

 それで、ボクがモルンだと気がついた。いろんなひとがボクの中に入っていて、あれこれ教えてくれる。


 その中に、そのひともいるんだ。

 テオ。


 正直なこというと、ときどきボクは、自分がモルンなのか、テオなのか、わからなくなる時もあるんだ。

 いつもテオのことを見ている。だんだん探さなくても、テオがどこにいるかわかってきたけどね。



 テオといっしょにガエタノから魔法を習ったよ。

 火事はイヤな思い出だけど、火魔法でかたきうちするんだ。

 火弾の爆発はいっぱい訓練したら、どんどん大きくなってきたよ。もっと! もっと! 大っきな爆発! 大爆発!

 テオは治癒魔法が使えないけど、キアーラもいるからね。


「なにを詠唱したの?」

「こうだよ」


 キアーラの質問に発動前まで詠唱してみせたら、特訓が待っていたんだ。


「そ、それであの爆発? 下位魔法の火弾が火炎弾なみじゃないの! 火弾の詠唱で上位の火炎弾! ……モルン、威力に注意しなさい! 村ごと吹き飛ばしかねないから、威力調整の特訓ね!」



 魔法の師はガエタノで、訓練をみてくれるのはキアーラだよ。

 でも、生きることについて教えてくれたのは、親方だ。


『猫は世界の頂点だ。生き物たちの王であることを忘れてはいかん』


『自分たちを人間と呼んでる、二本足たちのことだが。あれらは猫のくせに、変わってる。だが、俺たちに仕えてくれてるんだ。だから守ってやるのが道理だ』


『人間は不器用だから、よく魚をこぼす。しかたないから俺たちが、始末してやらなきゃならん。放っておくとイヤな虫が来る』


『猫でも二本足でも、赤ん坊は大事にしろ。弱くてすぐ死ぬからな。隣りで丸くなって暖めてやれ』


 だから、アントン村を守り、二本足たち、人間を守るんだって。



 ときどき、テオと魔道具の確認に村のソトを見てまわる。

 村を包んでいるケッカイを出ると、魔物がいるのがわかるよ。うん、アントン村を取り囲んで、たっくさんの魔物がいるんだ。海の方にもね。


 もちろん、美味しそうなネズミや鳥さんもいるよ。かれらは普通の生き物。狂っていないから、ボクにもわかるコウドウをするんだ。


 でも魔物たちはちがう。かれらから感じるのは、コンランかな。


「食べたい! 食べたい!」


 そう強く思っているんだ。なんでもかんでも食べたいってね。うーん、うまく二本足の言葉に出来ないな。

 そうか、そうだね。狂った食欲、欲望に支配されてる、ってなかのひとが教えてくれた。魔力が生き物を狂わせているんだって。



 でもあれは、その魔物たちとも、ちがってた。


 あれが村に入ってきた時は、背中がゾワゾワしたんだ。パァーって体じゅうの毛が逆立って、尻尾もボンッ!

 慌てて玄関を出たけど、ケッカイの魔力がグルングルンして、変な魔力がおっきくなる。

 家の外にいるみんなも気づいたんだ。みんなが大きな声で知らせてたよ。



 結局はガエタノが氷漬けにしてくれたけど、あれ、あの魔物はとっても嫌な感じだった。今思い出しても、つい耳を伏せちゃう。他の魔物とはなんかちがってた。

 魔力が強いだけじゃなくて……歪んでる?

 うーん、漁のカゴが歪んで、お魚があふれた時みたいかな。で、そのお魚がどんどん増えていく。増えるお魚はうれしいけど。

 歪んで増える魔力は、気持ちが悪くて毛が立っちゃった。


 もうこないといいな。 

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