幕間の雨宿り <1>

 幕間の雨宿り <1>


「そうですね。まだ当たりかどうかわからないです。そっちは?」

 高架下の壁に背を預けた男は、携帯電話を耳に当てながらタバコを吸っている。

 深夜のさらに深い闇の中。少し前まで降り続いていた雨はすでに止んでいる。

「ええ、俺もそんな気がします。三・七ってとこでしょう」

 周囲に人影はない。雨に濡れた車道も静かなもので、高架下に男の声がよく響く。

「こっちは任せてください。ええ、もちろんですよ。……ええ、わかってますから」

 電話先の相手を宥めるような落ち着いた声だった。

 男は紺色の上着を羽織り、茶色のチノパンを履いている。その声色に似合った落ち着いた服装で、黒縁の眼鏡をかけていた。歳は二十の半ば辺りか。それより若くも見えるし、その落ち着いた雰囲気がそれ以上に大人びても見える。

「また進捗があれば連絡します。携帯はマナーにしないでくださいよ。あなた携帯を見る習慣がないんだから。ええ、それじゃあ」

 電話を切り、男は深くタバコの煙を肺に送り込む。汚れた天井を見上げながら、白い煙をゆっくりと吐き出した。

「さて、困ったことになったな」

 呟きながら、傍に置いてあった傘を手に取って男は歩き出す。

 闇の中へと消えていく中で、口に咥えたタバコの火種がその憂いた表情を淡く照らしていた。





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