第27話 結婚話

家に帰ると未桜を見るなり使用人達は駆け寄り「今までどこにいっていた」「お前のせいで余計な仕事をする羽目になった」と散々罵っておきながら用件を言わずにいた。


「何か私に用でも」


何故自分を捜していたのか理由を言わない使用人達に痺れを切らし尋ねる。


使用人達はハッとして一人が冷たく用件を言う。


「信近様がお呼びだ。早く行け」


使用人達に「わかりました。教えてくださり、ありがとうございます」と礼を言う。


使用人達は未桜が話ている最中にも関わらずその場から去っていく。


もう、こんな扱いにも慣れたといえ思わず苦笑いをしてしまう。


慣れたとはいえ嫌な気持ちにならない訳ではない。


仕方ないことだと割り切っていても傷ついてしまう。


信近のいる部屋に着くまでの間、何故自分が呼ばれたのかを考える。舞桜が生きていたときでさえ、自分を部屋に招き入れたことがない信近が今になってどんな心境の変化があったのだろうかと思う。


どうしようもないくらい嫌な予感がする。


信近のいる部屋に着き、入る前に深呼吸をして自分を落ち着かせる。


意を決して戸を開けると、そこには信近だけでなく、寧々と末姫もいた。


どうして二人までここにいるのか、未桜にはいくら考えてもわからなかった。


「遅い!私が呼んだのに何故すぐ来なかった!」


中々来ない未桜に怒鳴りつける信近。


外に出ていた未桜は信近が呼んでいたなど知る由もないし、使用人に行くよう言われてからはすぐにここに向かった。


未桜は悪くなどないが、謝罪しようと口を開いたが寧々によって遮られる。


「本当よ。私達がどれだけ待ったか。お義姉様のせいでこの後の予定が台無しよ」


予定などなかったが文句を言う。


「本当その通りね。私達の時間を奪うなんて貴方何様のつもり」


寧々の後に続き末姫も文句を言う。


未桜は知らないが、信近が使用人達に未桜をここに呼べと言ってから大した時間は経っていない。二人もそのことをわかってはいるが、ただ単に未桜をいたぶりたいだけ。


「申し訳ありません」


頭を下げ謝る未桜の姿を見て寧々と末姫は意地の悪い笑みを浮かべ、心の中で未桜の事を馬鹿にする。


だが、信近は未桜のそんな態度が気に食わなかったのか、チッ、と大きく舌打ちする。


「早く座れ。話がある」


「はい」


信近に言われ三人の前に座る。


信近が本題に入る前二人は暫くお互いを見つめ合った。信近は未桜の目が嫌いだった。舞桜に似て真っ直ぐで汚れを知らない。いつだって前だけを見続ける。そんな目で自分を見つめられるのが嫌いだった。


どんどん信近の顔が歪んでいく。


「お父様。早く言って差し上げて。お義姉様にとってとてもいい話なんだから」


中々話し出さない信近に痺れを切らした寧々が早く言うように頼む。


寧々にとって今から信近が未桜に話す事はとてつもなく楽しみでしかたない。


「そうよ、貴方。さっさと言って早く終わらしましょう」


フフッと未桜を馬鹿にするように笑う末姫。


何故か二人は勝ち誇った笑みを未桜にむける。


二人が何故そんな顔を自分にむけるのかがわからなかったが、これから言われることが良いことではないのだろうと予想はついた。


フーッと深く息を吐いた信近が「そうだな」と呟く。


暫く目を閉じていたが、覚悟を決めたのか顔を上げて未桜にこう言った。


「未桜、お前には明日嫁いでもらう。朝になったらこの家から出て行ってもらう」


未桜は何となくそんなことだろうなと思っていたが、実際にそうなると何とも言えない気持ちになる。


信近は未桜に一言も相談なく勝手に結婚話を進めた。


自分が何をしようが未桜は何も言わないだろうとわかっていた。


この町を立て直すには結婚が一番手っ取り早いと。


相手は桐花家と懇意になれ、こちらは資金が手に入る。


桐花家も資金はあったが、今回の襲撃で半分以下になってしまう。


信近と末姫は寧々の結婚相手には九条家の次期当主をと考えていた。


そのため、今回の資金援助を頼む相手はつい最近最高位の陰陽師家として認められた若桜家とする。


向こうは最高位になったばかりだから自分達が手を貸してやろうと上から目線でこの話を持っていったが、最初は断られた。


何度も頼み込み漸く了承を貰えた。


但し、条件として二つ提示された。



一つ、資金は全て町に使うこと。もし破られた場合如何なる理由があろうと十倍の罰金を払ってもらう。


二つ、嫁いできた娘は結婚相手のものとする。如何なる理由があろうとそちらに返すことはできない。



信近は未桜を一生この町から追い払えると願ってもない機会で二つ返事で承諾した。


資金として桐花家は若桜家から既に五千万円の大金を受け取っていた。


だが、人はそう簡単に変わらない。


信近達は町に使ったお金は一千万円ほどでそれ以外は自分達の懐に隠した。


未桜如きでこんな上手い話にありつけるとは思ってもみなかった。使えない娘だとずっと思っていたが、こんなところで役に立つとは殺さないで良かったと信近は改めて思った。


「これは桐花家と若桜家の繋がりを強くするもの。異論は認めん。いいな」


信近は未桜に何も言わずにさっさとこの家から出て行けと遠回しに言う。


「わかりました。父上の言う通りにします」


未桜はこの結婚話のお陰で町を立て直す資金を調達したのだろうと察した。なら、自分に選択の余地はないなと結婚を受け入れる。


「そうか」


なら、もう用はないと部屋から出て行く。

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