第20話 桐花家
「私は今から妖魔を倒しに行く。君を安全な場所におくるから、私が来るまでそこで待っていてくれ」
「はい」
子供が頷くと手を振り霊力を使って子供と母親を桜が囲むと一瞬で安全な場所へ移動させる。
二人が安全な場所に着いたのを確認するとある人の元に急ぐため足を早める。
「桜の花びら……。まさか、若桜桃志郎がここにいるのか」
五ヶ月前に桐花家と九条家と同じ最高位の家と認められた若桜家の当主は桜の花びらを使うと言われている。
今、町中を覆うように舞う桜の花びらを見てこんな芸当ができるのは一人しかいないと確信する信近。
「(もし、本当に若桜桃志郎がここにいるのなら何とかなるかもしれない。妖魔は若造に任せて俺は町の連中を非難させれば、俺の株は上がる。うん、大丈夫だ、いける。これでいこう)」
何故桃志郎がこの町にいたのか理由はわからないが、今はいてくれたことに喜ぶ信近。
もし、桃志郎がここにいなければ信近は全てを失うところだった。地位や名誉、権力、名前。自分の手を血で染めて奪ったものが無駄になるところだった。
「寧々。お前は俺と一緒にこい」
さらに自分の名をあげようと、寧々にも武器を渡し戦うように命じる。
「えっ…お父様冗談ですよね」
安全な所で事態が終息するものを待つつもりだった寧々。それなのに最前線で戦えと命じられたと思い後ずさり信近から逃げようとする。
「いや、本気だ。お前も桐花家の娘なら戦え」
寧々を連れていこうと手を伸ばすとその手を払いのけ気が狂ったように叫ぶ。
「嫌!嫌よ!何で私がそんなところに行かないと行けないのよ!私は絶対行かない!行くならお父様一人で行ってよ!」
武器を床に叩きつけ自分は絶対にそんなところには意地でも行かないと抵抗する。
使用人や門下生達は寧々の発言に愕然とする。
「いい加減にしろ!寧々、お前は桐花家の人間だろう。俺は当主とし、お前は次期当主としてその役目を全うしなければならない。もし、今何もしなければお前はその座を剥奪される。いや、私がする。それでもいいのか」
次期当主の座を失うのは嫌だが町の人達の為に命を危険に晒すのはもっと嫌だ。でも、此処でそれを言ってしまえば全てを失うことになるので何も言えずにいる。
そんな寧々を抱き寄せ寧々にだけ聞こえるように話す信近。
「お前はただ結界だけ貼ればいい。それだけやれば充分だ。俺の言ってる意味がわかるな」
他の者には信近が寧々を落ち着かせようとしているように見えているので、優しい父親だと思われる。
「ごめんなさい、お父様。初めて妖魔を見て怖くて取り乱してしまいました。でも、もう大丈夫です。私は桐花寧々。この家の次期当主として町の人達を守らなければなりません。早く行って私達も戦いましょう、お父様」
先程の様子が嘘のように堂々と宣言する寧々。
信近と寧々に戦う意志があるとわかり漸く皆安心する。もしかしたら、二人はこの町を見捨てて逃げてしまうのではないかと感じていたから。
末姫はいきなり寧々の態度が変わったことに解せ無いと感じるも、戦う意志があるとわかり皆と同じように安堵した。
もし、二人がこの町を見捨てて逃げようとするのなら戦うよう説得するつもりでいた。
末姫にとって桐花家当主の妻という肩書はどうしても捨てられない理由があるからだ。
「二人共どうか無理はしないでくださいね」
「ああ、わかっている。君は安全な所に隠れてるんだ」
「はい、お母様。また、後でお会いしましょう」
二人が戦地に向かうのを見送り末姫は桐花家で一番安全だと言われているところで戦いが終わるのを待つ。
末姫達はこの場所が最も安全な場所だと思っているが、本当に一番安全な場所は本当の桐花家当主と歴史当主達が認めた人間しか入れない。
つまり桐花家では未桜しか入れないが、まだ当主の儀式を完了していないのでその場所のことを知らない。いや、正確に言うと覚えていない。
昔、未桜がまだ小さかった頃舞桜によく連れらてそこで過ごしていたがその事を未桜は覚えていない。
「ふぅー。やっと着いたわ。ここなら安心ね」
戸を開け中へ入り早く妖魔達を倒して欲しいと願う。
そして、あわよくばあの人がこの町を助けに来てくれないかと。まるで恋する乙女のような表情で祈りだす末姫。
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