第17話 妖魔
「紅よ。家はどこだい。送るよ」
空の色が青色から茜色に変わり始め夕日も沈みはじめた頃に助さんが紅にそう言う。紅を一人で家に帰すのが心配だった。
「私も一緒に行きます」
「いや、未桜ちゃんは早く帰ったほうがいい」
一緒に行くという未桜に首を振りながら駄目だと言う。
助さんは未桜の家の事情を知っている。未桜の祖父の時代からお世話になっていた。未桜の母親の舞桜もよく知っている。
あの頃は良かった。町は活気に溢れよく笑い声が響く楽しい日々だった。
でも、舞桜が死に信近が当主代理になった瞬間からこの町は終わってしまった。
ほとんどの人はこの町から出ていき、残った者は過労で死んでいった。それは信近と新たにこの町に来た人達のせいでそうなった。
助さん達も本当は未桜の事を助けたいと思っているもそんな力はない。下手に自分達が動けば未桜に対する態度がもっと酷くなるかもしれない。
ただ、黙って見ていることしかできない自分達の無力さに腹が立つ。
自分達が受けた恩を返す事ができない。
ただ、この店で団子を振る舞うことしか。
「でも…」
紅のことが心配で自分も家まで送りたいと思う。自分がこの後、信近達にどういった目に合わされるかわかった上で送ろうとする。
「僕なら大丈夫です。助さんもいますし」
助さんの手を握り笑顔で大丈夫だと伝える。
本当はまだ未桜と一緒にいたいが我儘は言えないと必死に我慢する。それに、二人の表情を見て何かあるのだと察した。
「本当に大丈夫?」
まだ少し心配でそう尋ねる。
「うん」
元気に答えもう大丈夫だと。
そんな紅をまだ少し心配そうに見つめる。紅の言葉を信じてないわけではないが、やはり家まで送るべきだと考える。
そんな未桜達のやり取りを見ていた青年が「私もついていきますので大丈夫ですよ」と微笑む。
その言葉を聞いて漸く安心する。自分より青年の方が頼りになる。
それからすぐ三人と別れ急いで家に帰る。
パーン。
未桜は信近に頬を打たれ、その衝撃で床に倒れる。
「お前は何様のつもりだ」
倒れ込んだ未桜にそう冷たく言い放ち蹴り飛ばす。
未桜が急いで家に帰ると待っていたといわんばりに使用人達に拘束され、信近の所に連れていかれた。
そこからは最悪だった。
寧々の主張を信じた信近と末姫に暴言を吐かれ嘘泣きをする寧々を可哀想だと思わないのかと無理矢理土下座させられた。
「あの簪は母が私にくれたものです。私の物です。あんたにあげるくらいなら燃やして二度と触れないようにしてやる」
そう言うと信近に思いっきり頬を叩かれ何様だと言われ蹴り飛ばされた。
「お前みたいな才能もない人間が調子に乗るな。寧々はお前と違って才能がある。この家の血を受け継ぐのは寧々だ」
信近が声を張り上げてまるで何かを誤魔化そうと必死に叫ぶ。
「そうよ。貴方じゃなくて寧々がこの家の時期当主になるのよ。簪くらい何よ。寧々が気に入ったんだから渡しなさいよ」
末姫も信近に続いて寧々が時期当主だと言う。
末姫は寧々が当主になった暁には私もと自分の願いを叶えられるはずだと喜ぶ。
「酷いよ。お義姉様。どうして私にこんな事をするの。ただ、私はお義姉様と仲良くしたいだけなのに」
わざと皆に聞こえるように大きな声で言う。自分は被害者だと。未桜のせいで自分はこんなに傷ついているのだと。
全ては未桜が悪く自分は何も悪くないと教えるために演技をする。
「寧々様が可哀想」
「なんて意地の悪い女なの」
「あれがこの家の当主なんてありえないわ」
未桜に聞こえるようにわざと大きな声で言う衝撃達。
未桜は今更傷ついたりしない。いつからかはわからないが、未桜はこの人達の言葉では傷つかなくなっていた。
可哀想な人達だと哀れに思っていた。
「本当にそう思っているのですか。確かに私に才能はありません。ですが、父上貴方にも才能はありません。私は母上と違い貴方の血を多く受け継いだのでしょう。私と貴方はそっくりです」
そう言うと信近の顔が真っ赤に染まり「黙れ」と叫ぶ。未桜はそんな信近の言葉を無視して続ける。
「貴方のその力は貴方のものじゃない。それは桐花家の歴代当主がこの町をこの家を守るために残した力。貴方はその力を全く使えていない。貴方を当主と認めていないと…」
彼らは言っている、と言葉を続けようとしたが桐花家の力を使って未桜に攻撃しその周りが雷が落ちたみたいに床が木端微塵になっていた。
本当は未桜をそうしたかったがこの力で未桜を傷つけることはできない。そのためいつも物理攻撃をしないといけなかった。
未桜を殺すとこの力は消えてしまうのでいつも細心の注意をはらいながら殴ったり蹴ったりしていた。
「これは、俺の力だ。俺のものだ。お前のじゃない。わかったか」
力を使って風をおこし力をみせつける。風の威力が強く未桜が飛ばされ壁に強く背中をぶつけてしまう。
その力を纏ったまま未桜に近づき拳を振り下ろそうとしたといきなり襖が開き使用のひとりが慌てた様子で入ってくる。
「大変です当主。林道丸が妖魔の大群を引きつれてこの町を襲っています」
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