02 食事

 兄を殺した翌日。僕はビニール袋に兄の身体を詰めていった。兄の生首は風呂場に置きっぱなしだ。目だけをぎょろぎょろ動かして、僕の作業を見守っていた。

 カーシェアで車を借り、まずは腕を埋めに行った。よさそうな地点は予めいくつかピックアップしていた。

 十一月になり、外は肌寒かった。しかし、穴を掘っていると汗をかいた。僕はパーカーを脱ぎ、半袖になって、必死に深く掘り進めた。

 帰りにコンビニに寄り、明太子パスタを買った。レンジで温めている間に、風呂場に行った。兄は僕の顔を見ると、ぱあっと口を開けて笑った。


「お帰り。寂しかったよ」

「そう」


 生首だけでいるというのも退屈なのだろう。僕は風呂場と脱衣場の間に腰をおろし、パスタができるまでの間、兄と話すことにした。


「兄ちゃん、痛みとかはないの?」

「全く。首から上の感触しかないよ」

「じゃあお腹とかもすかないわけ?」

「ああ。腹、無いからな」

「そしたら食事を与える必要は無いってわけか……」


 すると、兄はこんなことを言い始めた。


「飲みたいものはあるぞ。なあ、奏太。兄ちゃんがしつけてやったから、毎日しないと気が済まないだろ。兄ちゃんがしゃぶってやる。飲ませてくれよ」

「ええ……」


 兄は舌を出し、上下に動かした。僕は兄の頬をはたいた。


「やめてよね、死んでまで。この変態」

「お前だってもう変態なんだぞ。兄ちゃんに身体を作り替えられたんだからな。ちょっとやそっとじゃ満足できなくなったくせに」


 確かにそうだった。僕の身体はうずき始めていた。迷ったが、結局僕は下着をおろした。

 ぬちゃり、じゅぽっ。

 兄の生首を掴んで股間にあて、動かした。兄は口をすぼめてくれていた。僕は情けなく喘ぎ声を漏らした。兄が生きていた頃より――興奮している。

 どこで覚えてきたのか、最初にくわえられた時から兄は上手だった。僕はすぐに達してしまっていた。今回もそうだ。

 兄の口内に全てを注ぎ込むと、途端に後悔の念が襲ってきた。僕は紛れもなく変態だ。兄が言った。


「ははっ、美味しい。これから食事はこれでいいよ」

「うん……」


 兄の生首を置いて、僕はキッチンへ行った。パスタはとっくに出来上がっていた。喉に詰め込むようにしてそれを平らげた。

 それにしても、疲れた。さっきので余計な体力を使ってしまったせいもある。しかし、食事ということは、毎日与えなければならないのだろうか。生首を飼うのは初めてなのでよくわからない。

 僕はベッドに横になり、きゅっと目を瞑った。風呂場の兄は、静かだった。

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