雲の旅人 ~あの暑い日に食べたソフトクリームが村の畑を干上がらせた
八木☆健太郎
1. アルポンのソフトクリーム
【ニュース】
「トラヴァン地方で続いた記録的な日照りは、およそ半年ぶりのまとまった雨でひとまず終わりを迎えた模様です。気象観測庁によると、今後は例年通りの降雨量が予測され、水不足も徐々に解消に向かうものと・・・」
1. アルポンのソフトクリーム
「さぁ、みんな~。美味しい美味しいソフトクリームだよぉ。」
こうして一声かけるのが開店の合図。その声を聞くと、いつもすぐに人が集まってくる。
「いやぁ、お前ぇさんの作るソフトクリームはいつ食べても美味いなぁっ。」
この日もすっかり常連になった男性が、彼の作るソフトクリームに舌鼓を打っている。
「へへっ、ありがと。そう言ってくれるお客さんがいるおかげで、僕は生きていけるんだ。」
「ははは、なんだか大袈裟な言い方をするなぁ。」
「ホントだよ~。商売ってのはお客さんあってのモノだからねえ。」
「まぁ・・・それはそうか。はっはっは。」
こうやって客との会話が弾むのも、彼の商売が順調な証。
彼の名はアルポン。住居を兼ねた移動販売車に乗って各地をめぐりながら、その土地にある材料で作ったソフトクリームを売って生活をしている。彼の作るソフトクリームは「雲のような食感」「風のように溶けてゆく滑らかさ」などと評価され、行く先々で評判になり、時には長い行列を作ることもある。人の多い街に出ているというのもあるが、彼の作るソフトクリームにはそれだけ人を引き付ける味わいがあるということでもある。これまで地元の人達から定住し店を構えることを薦められたりもしたが、彼はそれよりもより良い材料との出会いを求めて、また新たな土地へと移動していく生活を続けているのであった。
「それにしてもアルポンが来てくれてほんとに良かったよぉ。ここんとこ暑い日が続いてっからさぁ、こういうもんでも食わねぇとやってらんないよ。」
「ははっ、おかげでこっちは商売繁盛だけど。まぁ、そう悠長なことは言ってらんないよね。」
「あぁ、おまけに雨が少ねぇときたら俺ら農家は死活問題だよ。」
「あ~、そうだよねぇ。」
「そうかと思えばバカみたいに大雨が続く年があったりさぁ・・・まぁ、自然が相手だから逆らうに逆らえねぇけど。」
「そうだよねぇ。降らなきゃ降らないで困るし、降ったら降ったでまた困る・・・ねぇ、それならハウス栽培にでもしたらどうなの?あれなら天気関係ないじゃん。」
「ん?ハウスにしても水は要るっ。」
「あ・・・ははっ、そっか、そうだよねぇ。」
「あぁ。だから、どっちかっつうと降らねえ方が困るかなぁ。」
「あぁ、そうなんだねぇ。」
少雨による干ばつへの不安が、農家達の悩みの種になっている。
「なぁ、ところでアルポン?しばらくはこの辺に居られるんだろ?」
「ん?あ~、それがねぇ・・・そうもいかないんだぁ。」
「そうなのか?」
「うん・・・ほら、僕はその土地土地の材料を使って作ってるだろ?」
「あぁ。」
「やっぱり・・・なんにだって『旬』ってのがあるからさぁ、それを逃したくないんだよねぇ。」
「へぇ、じゃぁなにかい?この辺の旬は、もう終わりって事かい?」
「あぁ・・・うん。へへっ、ちょっとね。だから、もっと早く来れば良かったなぁって。前のとこに長く居すぎたんだなぁ。」
「ん、前はどこに?」
「あぁ、トラヴァンの方にね。あの辺は良い材料がたくさんとれたんで、調子に乗ってつい長居をさ。」
「あ~、トラヴァンかぁ・・・そう言えば、あの辺も随分と長いこと日照りが続いて大変だったらしいねぇ。」
「あ~、大変だったらしいねぇ。やたら暑かったり、断水があったり・・・それこそ農業は大打撃だ、って。」
「このミータスの辺りも、ああなっちまうのかなぁ。」
「う~ん、そうならないと良いけど・・・ねぇ。」
「・・・あぁ。」
二人が見上げる空は、どこまでも綺麗に澄んだ青空だった。
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