瞬と間

 もうあと残り3分を切った。

 もう始めるしかない。私は斧を握った。


「あ、足首を切り落とすんですね。生き延びたいんですね」

 なんとでも言え。


 俺は自分の残った左足の足首に、振り上げた斧を落下させた。肉を切る感触と共に全身を突き抜ける耐えがたい痛み、だがもう時間がない。


 私はもう一度斧を持ち上げ、足首に振り下ろした。斧の刃が硬い骨で止まり、その感触が手から脳に伝わり、痛みが倍化した。


「ほら、頑張れ頑張れ、もう時間がないですよ。カップ麺が出来るくらいの時間しか」

 

 私は足首に斧を振り下ろし続けた。剥き出しになった骨が砕けた。あともう少し、もう少しだ。意識が虚になってきた。痛みが限界を超えた。でも私はやらねばならない。


 あと一太刀、もう一太刀、私は多分鬼の形相をしているだろう。出来れば痛みで放つこの声を止める猿ぐつわが欲しかった。


 そして私は思い切り斧を振り上げた。斧は自然落下し、私の足首に残ったわずかな筋と繊維質と肉を、紛うことなく断ち切った。


 その瞬間、私の体を離れた足首は転がって、パソコンのあいつの顔の前で止まった。まるで身代わりを捧げるように。


 私は足首に留まっていた錠を振るい落とした。もう足かせはない。


 これで俺はここから逃げる。あいつに爆死するところなんて見せない。生きたいわけじゃない。扉を出てすぐに死んでも構わない。


 あいつの望む死を死にたくなかった。私は私の死を死にたいだけなのだ。


 残り1分を切った。私は陽菜のように膝で立って進むことがもう出来なかった。元プロレスラーの男は施錠されてない扉から逃げて行った。陽菜が開錠したあの扉から。


 私は床を這いずり、ジリジリと進み、デジタルタイマーの前まで来た。あと残り15秒。これさえ止めれば、爆弾さえ爆発させなければ、後はゆっくり手錠を鍵ではずせばいいのだ。


 私はジワリとタイマーににじり寄って手を伸ばした。その青い導線をつかんだ。そして最後の力を込めて引き抜いた。その瞬間......!

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