1977年9月 里中達也の手記2

 私は娘がどこかで生きてると思っていました。子供がいない夫婦にでもさらわれて、大事にされて、食事もさせてもらって、生きているって思ってました。


 でも眼球と乳歯が送られて来たんです。眼球を取られたということは、もう娘の目は見えないということです。


 生きてる人間にそんなむごいことは出来ないと思います。娘は殺されたのです。この街で。この余所者に冷たい街で。


 私たちは山梨県のS市から移住して来ました。そこは昔、甲斐国と呼ばれていました。甲斐は嫌いですか? 


 この街の人は甲斐は嫌いですか? 娘を殺したくなるほど甲斐は嫌いですか? 人の心を、尊厳を、踏みにじるほど、甲斐は嫌いですか? 


 私は涙が止まりませんでした。どうして、どうして娘がこんな目に合わなきゃいけないのですか? 


 私と家内は抱き合って泣きました。声を上げて、この街を憎んで泣きました。甲斐は嫌いですか! 甲斐は嫌いですか! 


 私も家内ももう立ち直る術がありません。大切な娘が殺されてしまったのです。私は天に向かって呪詛を吐きかけました。甲斐は嫌いですかっ! そして、殺してやる、と。

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