11月24日、魔法狩りとの戦闘
ついに、というべきか。魔法狩りの勢力は、第5支部の近くにまでやって来た。朱音もその対処に追われている。
「……えい」
小さな掛け声に合っていない、重い一撃。身の丈よりも大きな鎌を片手で振り回し、飛んできた攻撃魔法を全て叩き斬る。そのまま走り出した璃香は、襲撃者に氷の魔法をかけて動けなくさせた。
「そらよ!」
こちらは声の荒々しさとやっていることが合っていない。光は負傷者に医療魔法をかけていた。時折飛んでくる攻撃を、2本の短剣でいなしている。
朱音と言えば、ひたすら近隣の建物に被害がいかないように防御魔法をかけているだけ。戦闘面では全く役に立っていない。
(……まずいな、これ)
このままでは給料泥棒と言われてしまってもおかしくなかった。支部に戻っても、そのことばかり考えてしまう。
「悩み事……?」
今日も青白い顔の奏介が、朱音に声をかけてきた。
「え、なんでわかったんです?」
「意外と朱音ちゃん顔に出やすいから……」
「橘さんも顔に色々出てますよ。貧血ですね」
「あ、わかる?」
この間、奏介は医務室のベッドでずっと横になっていた。朱音は携帯している絆創膏がなくなっていたので貰いに来ていたのだ。
「僕は非戦闘員だから……何もアドバイスできないし……」
「そんな体調で外出られても皆さんびっくりすると思います」
「それもそうだね……」
奏介は天井を見上げて乾いた声で笑った。合間に咳が混じり、朱音はぎょっとして振り向くが、次に瞬間には何事もなかったように起き上がっているので、病弱も極めると最強なのではないかと思ってしまった。
「技術班に行くのが一番かな……」
「お呼びですね!」
スパーン!
凄まじい勢いで医務室の扉が開かれた。そこにいたのは、案の定というべきか、薫である。紙とペンを持ち、満面の笑みを浮かべていた。
「魔法衣のことならボクにお任せあれ!」
「ごめん、間に合わなかった」
恵美が遅れてやってきた。走って来たようで、息が上がっている。
「璃香が、アンタがへこんでるみたいって言ってるって光が言ってて」
「ややこしい!」
「大方戦闘面で役に立てなかったとかだろうからって聞いたら、薫、走り出しちゃってね。止められなかったってワケ」
「あ……」
あのとき、戦いながらも璃香は朱音のことを見ていてくれたのか。先輩の優しさに胸を打たれそうになったとき、
「でも武器作るなら大歓迎! 何にする!?」
強く手を掴まれて、感動した心が何処かに行ってしまった。
「魔法耐久値上げましょう、あとは動きやすいように少し丈を調整しましょうか。希望とかってあります?」
「近接は……無理か。なら遠距離かな。軽いのがいいよね。あ、でも軽量化の魔法かければいけるよ! どうしたい?」
「ちょっ、待っ……」
追い詰められた朱音を救ったのは、ベッドから聞こえるか細い声だった。
「話すんならラボまで行って……」
その声に、多少冷静になった2人は、朱音を連れてラボまで向かう。道中、千波に憐れむような目をされたが、気のせいだと思うことにする。
「今の小森さんの魔法衣は特にデザイン変更なしですよね。何かこうしたいっていう希望はありますか? 上野さんは動きやすいようにってショートパンツにしてますよ」
「ズボンだといいかなって……魔法耐久値もそう高くないので」
「うーん……上げようと思えばいくらでも方法はありますよ。ロングブーツにしてみるとか」
「いや、足を出すのはちょっと……」
「そのほうが可愛いのに……」
職人として、譲れない拘りがあるらしい薫は不服そうだ。何故生足に拘るのかはわからない。可愛さよりも実用性をとってしまう朱音には、多分一生理解できないことだ。
「あとは武器でしょ!」
ずい、と薫を押しのけて恵美が入ってくる。その両手には、試作品と思われる弓や銃、鞭のほか、朱音が名前を知らないものも抱えられていた。
「いや、あの……どれも使いこなせそうにないので……」
「初めは皆初心者だから! 璃香だって、光だってそうだったから!」
「そういえば、あのお2人はどうやって武器を選んだんですか?」
戦闘訓練は養成学校でもあったが、そのほとんどが魔法を使っての訓練だった。稀に木刀などを用いることもあったが、2人のような大鎌や短剣は使ったことがない。
「あの2人は、『拘りなし、使えるもの』しか言わなかったから私が適当に作ったら、そのまま使いこなしてた」
「なんも参考にできないですね!」
「まあ、アイツらは最初っから強かったしね」
璃香ほどの力も、光ほどの素早さも持っていない朱音はどうしたものか。恵美はしばし悩んだのち、
「閃いた!」
と叫んでラボの奥の方へ消えてしまった。
「魔法も使うんで……明日にはできてると思います。午後、取りに来てください」
目を輝かせた薫は、凄まじいスピードで何かを書き殴ると、恵美と同じく消えていった。
1人残された朱音は、何故か酷い疲労感に襲われながら自室へ戻る。すれ違いざまに、千波がポン、と軽く肩を叩いて励ましてきた。
「お疲れさま」
疲労回復効果のある魔法の歌を歌ってあげる。
そう言い出す千波から、朱音は走って逃げだした。
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