61話 立ち入り禁止区域

 エドワードはジーナの出した、『新しく来た上級使用人を侯爵令嬢につけて、侯爵令嬢および使用人の城塞内での自由行動を制限する』という案にうなずいた。


「確かに、それで動きは抑えられるかな。家庭教師に推薦されるくらいだから良識はあると信じたい、……が、そもそも年若い侯爵令嬢をよこすってところがもう良識を疑うんだよな……。一面識もない令嬢が避暑気分で来られても困るんだけどね。むしろ、受け入れ体制を整えたいから家庭教師をお願いしたのに」


 エドワードはぼやきつつ、まだ整備されてない区域は立ち入り禁止区域に、改装していない部屋と当主の住む階は立ち入り禁止にするようにシルヴィアに伝えた。


「他にもあるかもしれません。少し考えます。他の者とも相談し、決定したらまたお願いにまいります」

 エドワードはシルヴィアに一礼すると執務室へ行き、向かって左奥にある机についた。


 執務室は、シルヴィアに頼んで重厚な造りになっていたが、シルヴィアの好みかと言えばそうではないようで、メイヤーがいくら「書類を城塞に持っていく」と言っても、かたくなにメイヤー宅へ行きサインをこなす。ここへは面接と会議以外では寄りつかない。


 というか、それもエドワードがシルヴィアに指示するから来るだけで、自発的には決して来ない。

 エドワードは失敗したな、と後悔しつつ、しかたがないのでシルヴィアがここで仕事をするようになるまでは自分が使うことにした。


 ちなみにカロージェロも反対側の右奥に机を用意してもらっているのだが、教会で仕事をしているのかここへは滅多にこないので、ほとんどエドワードしか使っていない状態なのだった。


「さて、やるか……」

 見取り図を広げながら考え込む。


 見栄えだけ整えた執務室や、勉強用の部屋、図書室は行けるようにし、正面玄関にある庭と中庭はシルヴィアの魔術で整えて行けることにした。貴族令嬢なので庭を散策することも中庭の東屋でお茶をすることもあるだろう。


 厩舎と畑は逆に禁止区域にする。

 というか、あそこは家畜がいるので侯爵令嬢なら近寄らないだろう。


 シルヴィアが連れてきた、家畜たちは普通じゃない。

 人の話す言語を理解しているようだし、なぜか異常に強いのだ。通常種とは比べものにならない凶悪さがある。

 一番小さな鶏ですら、以前に賊が忍び込んだ際にエドワードに混じって簡単に殺していた。

 守りきったのはあの家畜たちのおかげでもあるし、計画が狂ったことによりエドワードが混乱し、参戦してきた家畜たちに「ソイツを止めてくれ!」「回り込め!」などと指示を出していたのだが、それをキッチリ理解しその通りにこなしていた。


 そもそも、牛や山羊の角は伸びないし、鶏の蹴爪だって下手な暗器より鋭くならない。

 家畜の皮を被った魔物なんじゃないかと漠然と考えているが、何よりシルヴィアが非常にかわいがっているので、まぁいいか、と考えていた。


 ……だが、魔物だとすると、侯爵令嬢が何か家畜たちに仕掛けた場合、容赦なく殺される。

 さすがに紹介で訪れた隣国の侯爵令嬢を殺したらまずいだろう。

 それには厩舎辺りを立ち入り禁止区域にするのが一番だと、エドワードは考えた。

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