58話 候補者、喰らいつく

 ……と、思ったらまた顔を上げた。

「懺悔し贖罪すれば、再度シルヴィア様にお目通しいただけるのでしょうか?」

「「「え?」」」

 ジーナとエドワードとカロージェロはハモって聞き返してしまった。

 左端の候補者は、なぜか先ほどとは打って変わったような、キラキラした瞳でシルヴィアを見つめている。

「私は今、非常に悔いております。ですので、懺悔をし、贖罪を行い、そしてシルヴィア様にお仕えしたいと心から願っております。お願いです、もう一度チャンスをください!」

 その展開は今までなかったので皆が戸惑ったが、カロージェロが言った。

「……どちらにしろ、罪の告白と贖罪、そして浄化は私の務めです。教会にいらしてください」

 そう言って彼を連れ出した。


 とんでもない事態になり他の者も呆気にとられたが、今度はエドワードが気を取り直した。

「では、皆さんはシルヴィア様に認められましたので、雇用契約書を作成しサインをお願いいたします。その後、部屋の割り当てと制服の支給を行いますので各自部屋で着替えてください。仕事は、家令を兼務しているカロージェロが戻ってきてから適宜配置されますので、それまでホールで待機していてください」

 と、伝え、採用になった使用人たちを別室に案内した。


 新しく入った使用人たちに制服を渡したエドワードとジーナは、顔を見合わせた。

「珍しい展開ですよね」

「珍しい展開だよな」

 互いに言い合う。

「……でもどうします?」

 ジーナが尋ねると、エドワードはため息をついた。


「……俺としては不採用だな。一度不採用になったのに喰らいついてくるなんて、必死になる理由がある、と考えるのが妥当だ。カロージェロのスキルで何が視えていたのかってのもあるが……。はなっから不採用にしなかったってことは、大したことはないが採用したくない、って罪だったんだろう」


 ジーナは首をかしげながらエドワードを見た。

「あるいは、エドワードと同じ罪だったのかもしれませんよ? エドワードはその罪を持っていてもシルヴィア様に対する忠誠心は高く、むしろシルヴィア様からはエドワードなしじゃ泣きっぱなしってくらい頼られているでしょう? それがあって、カロージェロは躊躇ったのかも」


 エドワードは首を横に振る。

「奴なら、俺と同じ罪を持った人間が『雇用してくれ』って現れたら即不採用にするだろうよ」


 ジーナは呆れた。

「しませんって。カロージェロはなんだかんだエドワードを信頼してますから! 信頼していないのは、エドワードの方です!」

 ジーナがキッパリ言うと、エドワードは形勢が悪いと話を変える。

「で、だ。罪はともかく、忠誠心がないわりにここで雇ってくれって必死になる理由ってのは、別に雇用主がいる、って考えるのが妥当だ。間者だろう。雇用主は恐らくオノフリオ侯爵だが……」


 弱みを握られ必死になっているとなると、非常にまずい。

 雇われるためなら贖罪だってするし、シルヴィアに忠誠だって誓うだろう。


「……っていうか、そういう場合どうなるんだ?」

 弱みを握られているのなら、オノフリオ侯爵に忠誠心はないだろう。だが、シルヴィアに忠誠を誓えるものなのか?

 なんにせよ、不採用にした方がいいな。


 ――と、結論を出してシルヴィアに進言しに向かおうとしたとき、カロージェロと先ほどの候補者が談笑しながら現れた。


 カロージェロは、輝くような笑顔で伝える。

「彼は改心しました。これからはシルヴィア様に永遠の忠誠を誓うそうです。先ほどシルヴィア様に再度面会させて忠誠を誓ってもらいました」

「お前、何言ってんだ?」

 エドワードは思わず素でツッコんでしまった。


『お前は騙されやすいんだよ!! そんなん裏があるに決まってんだろ!!!』と罵りたいエドワードだが、何やら狂信者モードに入ったカロージェロは、もうすでにシルヴィアのもとへ行き面談を勝手に行い、しかもシルヴィアから合格を言い渡されたようだった。


「……勝手な真似をしやがって……!」

 慌ててエドワードがシルヴィアに突撃した。

「シルヴィア様! 先ほど不採用にした男、採用したんですか!?」

「しました」

 あっさり答えたシルヴィア。


 エドワードが頭を抱えた。

 シルヴィアはキョトンとしている。

「カロージェロと同じになりました。だから一緒にはたらいてもらうです」

「……カロージェロと同じ?」

 エドワードもキョトンとした。


 どういう意味だろう、と考えていたら、声をかけられる。

「……あのー……。お疑いももっともですので、弁明させていただければと思います。シルヴィア様の代理を務めていらっしゃる方にいつまでも疑われているのは困りますし……」

 エドワードが振り向いたら、左端にいた候補者が頭を下げた。

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