56話 対策会議 下

 エドワードは、カロージェロに嫌そうな顔を隠しもせず、照罪のスキルを使うように頼んだ。

「信用ならないスキルだが、やらないよりマシだからな」

「信用ならないのはあなたの罪でしょう? いいかげん贖罪なさい。いいですか、自分がやられたからといって同じ事をやり返すなんて、幼児並みの理屈なんですよ。そして、それは立派な罪なことを自覚してください、もういい歳なんでしょう?」

「お前よりは若いけどな」

「たった二歳の違いを威張って言わないでほしいですね。そして、年下という自覚があるのでしたら『年上を敬う』という言葉を知った方がいいでしょう。これからは敬語で会話してください」

「敬える相手には敬語で話しているよ」

「そうでもありませんね。幼児並みだから自覚がないのでしょう、困ったものです」


 いつもの言い合いをして、ジーナが呆れたジト目で二人を見た。

「……お二人の仲の良さはじゅうぶん堪能させていただきました。ですから、話を元に戻しましょう?」

 笑ってない笑顔でジーナに言われた二人はばつが悪そうな顔をした。


 カロージェロが咳払いをすると、

「……オノフリオ侯爵も、私のスキルはよく知っています。ですから、素性のしれない者や間者を送り込んでくることはないはずです。……ですが、このスキルは万能ではありません。本人が罪と意識していない場合、私には視えませんから」

 と、説明した。

「ある程度でいいさ。どちらにしろ、シルヴィア様の魔術がある」

 と、エドワードが言った。


 あの【支配】という魔術は謎だ。

 というか、シルヴィアの属性魔術自体が謎だ。

 エドワードの推理では、シルヴィア本人の意思を魔術として具現化している、と考えている。

 なぜそれが『生活魔術』なる名前なのかがわからないが……。

 むしろ『想像創造魔術』と表した方がいいんじゃないかと思うことがある。


 ジーナは、エドワードの言葉に深くうなずく。

 ジーナの属性魔術は水だが、大したことはできない。

 エドワードに手ほどきを受け、戦闘時に目くらましや騙し等、補助的な役割では使えるようにはなった。

 だが、魔力はさほどないので何かあったときの虎の子的に使う形だ。魔力切れを起こす方が危険だから、基本は使わない。

 そんなジーナからしたら、シルヴィアの魔術は素晴らしいの一言に尽きる。

 城塞をまるごと支配し、さらにはこの城塞都市をすべて支配下に置いてしまうシルヴィアをジーナは尊敬してやまないし、あの時あの家を飛び出してきて本当に良かったと心から思えるほどにシルヴィアと出会えたことを神に感謝している。


 カロージェロももちろん尊敬しているが、カロージェロはシルヴィアの魔術には穴があることを心配している。

 前回、自分の不手際もあり賊を捕り逃がしたのだが、『夜中に歩き回る者などいない』というシルヴィアの先入観で綻びが出来たのも、また事実なのだ。

 つまり、想定外で【支配】も崩れる可能性がある。

 だからこそ、自分のスキルで出来る限り篩にかけたいのだが、自分のスキルも綻びがある。

 罪を罪と思わず、自分を騙しシルヴィアの【支配】を受けつつも裏切ることが出来るような人物が現れたら、と考えてしまう。

 考え込むカロージェロを見て、エドワードが言った。

「……だいたい考えてることはわかるけどな。その辺りの対策もするから、もう少し付き合えよ」

 エドワードも、前回のようにまた自分が外に出てシルヴィアが泣く破目になったら最悪だ、と考えているので真剣だった。

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